遺産分割協議書を偽造されたときの対処法を解説
- 遺産分割協議
- 遺産分割協議書
- 偽造
被相続人の遺産を分けるには、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。遺産分割協議により合意した内容は遺産分割協議書にまとめられ、それに基づいて、相続登記や預貯金の払い戻しなどの手続きが進められていきます。
しかし、遺産分割協議書が相続人のだれかによって偽造され、勝手に相続手続きが進められてしまう場合もあるのです。遺産分割協議書の偽造は、さまざまなリスクやペナルティーのある行為になりますので、そのような行為が発覚した場合には、適切な対処が必要となります。
本コラムでは、遺産分割協議書が偽造された場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。
1、遺産分割協議書の偽造にあたる行為
遺産分割協議書の偽造にあたる行為としては、以下のようなものが挙げられます。
-
(1)相続人の合意なく押印する
遺産分割協議書は、相続人全員が参加して行う必要があり、ひとりでも欠いていた場合には、遺産分割協議は無効となります。
相続人の合意なく遺産分割協議書に押印する行為は、当該相続人の意思に基づかない遺産分割であるため、遺産分割協議書の偽造に該当します。 -
(2)相続人の合意・押印後に遺産分割協議書を改ざんする
遺産分割協議に相続人全員が参加して、相続人全員が記名押印した遺産分割協議書は、基本的には有効な遺産分割協議書として扱われます。
しかし、その後に遺産分割協議書の内容が書き換えられてしまうと、相続人全員が合意した遺産分割協議書とは別の文書になってしまいます。
そのため、相続人の合意・押印後に遺産分割協議書を改ざんする行為は、遺産分割協議書の変造に該当します。 -
(3)勝手に遺産分割協議書を破棄、隠匿する
遺産分割協議が有効に成立し、遺産分割協議書の作成も完了した後で、遺産分割協議の内容に納得ができないなどの理由で勝手に遺産分割協議書を破棄・隠匿してしまうことがあります。
遺産分割協議自体は、口頭でも成立しますが、それを証明するためには遺産分割協議書が不可欠となります。
このような遺産分割協議書の破棄・隠匿は、遺産分割協議書の偽造と同様にペナルティーの対象になります。
2、遺産分割協議書を偽造するとどうなる?
遺産分割協議書を偽造することには、以下のようなリスクが存在します。
-
(1)遺産分割協議書が無効になる
遺産分割協議書が偽造された場合には、すべての相続人が遺産分割に関与せずに、一部の相続人により勝手に遺産分割協議書が作成されたことになります。
このように相続人全員の関与なく作成された遺産分割協議書は、無効です。
無効な遺産分割協議書は、預貯金の払い戻しや相続登記といった相続手続きに利用することはできません。 -
(2)私文書偽造罪として罰せられる
遺産分割協議書を偽造した場合には、以下のような罪に問われる可能性があります。
- 私文書偽造罪……遺産分割協議書を偽造した場合(3月以上5年以下の懲役)
- 偽造私文書行使罪……偽造した遺産分割協議書を使用した場合(3月以上5年以下の懲役)
- 公正証書原本不実記載罪……偽造した遺産分割協議書で相続登記をした場合(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)
- 詐欺罪……偽造した遺産分割協議書で預貯金の払い戻しをした場合(10年以下の懲役)
遺産分割協議書の偽造が発覚した場合には、刑事告訴をすることにより、偽造行為をした相続人に対して刑事罰を科せられる可能性があります。
-
(3)相続人としての資格には影響はない
民法では、相続人に相続に関する不正行為があった場合には、法律上当然に相続権が剝奪(はくだつ)されるという「相続欠格事由」が定められています。
しかし、相続欠格事由には「遺言書」の偽造などに関する規定はありますが、「遺産分割協議書」に関する規定はないため、遺産分割協議書の偽造は相続欠格事由にはあたりません。
そのため、相続人が遺産分割協議書を偽造したとしても、相続人としての資格に影響が生じることはないのです。 -
(4)相続した財産の返却を求められる
偽造した遺産分割協議書は無効ですので、それに基づく相続手続きも当然に無効となります。
したがって、偽造した遺産分割協議書で預貯金の払い戻しをしたとしても、本来は払い戻しを受ける権利がないことから、遺産分割協議書の偽造をした相続人は他の相続人から相続した財産の返還を求められることになります。 -
(5)損害賠償請求を受ける
遺産分割協議書の偽造により、他の相続人に損害が生じた場合には、他の相続人から損害賠償請求を受ける可能性もあります。
3、遺産分割協議書の偽造が疑われるときの対処法
遺産分割協議書の偽造が疑われるときは、以下のような対処法を検討してください。
-
(1)弁護士に相談する
遺産分割協議書の偽造が疑われるときには、まずは弁護士に相談しましょう。
遺産分割協議書の偽造にあたる場合には、偽造をした当事者との話し合いや調停・訴訟などの法的対応が必要になってきますので、適切な対応をとるためにも専門家である弁護士のアドバイスが不可欠です。
相手が財産を処分してしまった後には元に戻すのが難しくなってしまうため、早めに相談することが大切です。 -
(2)遺産分割協議書の偽造をした本人との話し合い
遺産分割協議書の偽造をした本人が遺産分割協議書の偽造を認めれば、改めて遺産分割協議を行うことができます。
そのため、まずは、遺産分割協議書の偽造をした疑いのある本人との話し合いにより、遺産分割協議書が偽造であることを認めてもらうようにはたらきかけることになります。
もっとも、遺産分割協議書の偽造は犯罪行為に該当するため、相手は容易には認めてくれないことが予想されます。 -
(3)遺産分割調停を申し立てる
遺産分割協議書の偽造をした本人が偽造をしたことを認めない場合には、遺産分割協議書が無効であることを前提として、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てを行うことになります。
調停の場において、遺産分割協議書が偽造であることを相手が認めてくれれば、改めて、相続人の話し合いにより遺産分割を行うことができます。
しかし、偽造を認めない場合には、調停では遺産分割協議書の有効性を判断することができませんので、遺産分割調停は不成立になってしまうのです。 -
(4)遺産分割協議書の無効を争う訴訟を提訴する
遺産分割協議書の有効性に争いがあり、当事者の話し合いでは解決できない場合には、裁判所に遺産分割協議書の無効を争う訴訟を提起する必要があります。
遺産分割協議書の無効を争う訴訟には、以下の二つの方法があります。- 証書真否確認請求訴訟
- 遺産分割協議不存在確認訴訟
いずれの方法で争うにせよ、裁判においては、「遺産分割協議書が偽造された」という事実を証拠により立証する必要があります。
-
(5)不当利得返還請求訴訟または損害賠償請求訴訟を提訴する
遺産分割協議書が偽造され無効である場合には、それに基づく遺産分割もすべて無効になります。
無効な遺産分割協議により不利益を被った相続人は、遺産を相続した相続人に対して、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起することが可能です。
4、遺産分割トラブルは弁護士にご相談を
遺産分割のトラブルでお困りの場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
-
(1)偽造された遺産分割協議書の効力を争ってくれる
遺産分割協議書が偽造された場合には、その遺産分割協議書は無効なものになります。
しかし、偽造した疑いがある本人が素直に偽造を認めてくれない場合には、裁判などの法的手続きにより遺産分割協議書の有効性を争っていく必要があります。
このような法的手続きを適切に進めるためには、法律に関する専門知識や経験が不可欠です。
遺産分割協議書が偽造された疑いがある場合には、まずは弁護士にご相談ください。 -
(2)有利な条件で遺産分割を進められる可能性が高くなる
遺産分割協議が無効になれば、再度遺産分割協議を行わなければなりません。
遺産分割では、相続人には法定相続分が保障されているため、基本的には法定相続分に従った遺産分割を行うことになります。
しかし、「生前に被相続人から多額の贈与を受けた相続人がいる」という場合や「被相続人の介護に尽力した相続人がいる」という場合には、特別受益の持ち戻しや寄与分を主張することにより、法定相続分を上回る遺産をもらうことができる可能性があります。
このような制度を利用するためには、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
また、弁護士に依頼して遺産分割協議や調停・審判などを進めていくことで、ご自身で対応するよりも有利な結果になる可能性が高くなります。
5、まとめ
自分に有利な遺産相続を実現するために、勝手に遺産分割協議書を偽造してしまう相続人がいます。
しかし、遺産分割協議書を偽造したとしても有効な遺産分割協議書にはならず、偽造した人には私文書偽造罪などの刑事罰が科されるリスクもあるのです。
遺産分割協議書に記名押印をした記憶がないにもかかわらず、勝手に遺産相続の手続きが進められているという場合には、遺産分割協議書が偽造された可能性があります。
偽造が疑われる場合には、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|