サービス残業せざるを得ないのは違法? 原因と対処法を解説

2025年10月20日
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サービス残業せざるを得ないのは違法? 原因と対処法を解説

令和5年に全国の労働基準監督署で行われた「賃金不払いが疑われる事業場に対する監督指導(厚生労働省)」の結果は、以下のとおりでした。

【件数】2万1349件(前年比818件増)
【対象労働者数】18万1903人(前年比2260人増)
【不払い金額】101億9353万円(前年比19億2963万円減)

本コラムでは、サービス残業が発生する背景や違法性・対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。


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1、サービス残業せざるを得ないと感じてしまう原因は?

サービス残業とは、労働者が労働時間外も働いているにもかかわらず、残業代(時間外手当)が支払われない状態です

サービス残業は労働基準法に違反する行為ですが、職場環境や企業文化の影響で当たり前のように行われているケースがあります。

平成24年に日本労働組合総連合会が実施した「労働時間に関する調査」では、42.6%の方が「サービス残業せざるを得ないことがある」と回答しました。

では、なぜ多くの方がサービス残業を強いられているのでしょうか? 考えられる主な原因を以下で解説していきます。

  1. (1)周囲もサービス残業をしている

    同僚や上司が定時を過ぎた後も働いている場合、「自分も同じように残業せざるを得ない」と感じやすい状況になります。多くの人がサービス残業をしていると同調圧力が生じ、自分だけ帰るのは気まずいと感じてしまうためです。

    周りと同じように残って仕事を続けた結果、気づけば毎日サービス残業をしているというケースもあるでしょう。

    とくに日本の企業文化では周囲との協調を重視する傾向があり、帰るべきとわかっていても行動に移せない実態があります。

  2. (2)上司に言いづらい

    残業した分の賃金がもらえていない状況であっても、それを上司に直接伝えるのは勇気がいることです。

    「問題を起こしたくない」「面倒と思われたくない」という気持ちから、サービス残業の不満を口に出せずに抱え込む方も少なくありません。また、サービス残業が常態化している会社では、「そういうもの」として済まされてしまうケースもあるでしょう。

    このような風潮が職場全体に蔓延すると、不満を感じながらもサービス残業せざるを得ないという悪循環になってしまいます。

  3. (3)評価に影響する可能性がある

    「定時で帰ると評価が下がるのではないか」という不安も、サービス残業を引き起こす原因のひとつです。

    とくに目に見える成果が出にくい業務が中心の職場では、「遅くまで頑張っている姿勢」が高く評価されるケースがあります。そのため、業務が終わっていても、周囲に合わせて残って仕事をする「残業アピール」が常態化してしまうのです。

    企業側の評価基準のあいまいさが、無意味な長時間労働やサービス残業を助長しているともいえます。

  4. (4)暗黙のルールになっている

    「就業時間後も残って働くのが当然」とされる職場文化では、明確な命令がなくてもサービス残業が常態化してしまいます。

    たとえば「新人は残業するもの」、「与えられた仕事が終わるまで残るのは当たり前」といった暗黙のルールがあるとします。このようなケースでは、表向きには強制していないとされながらも、実質的に従わざるを得ない状況になるでしょう。

    従業員の中で共有される暗黙のルールによって、強制に近い形でサービス残業が続いているケースは多く見られます。

2、サービス残業の違法性

労働基準法において、サービス残業は原則として違法です

労働基準法では、労働時間は「使用者の指揮命令下にある時間」と定義しています。明白な業務命令がなかったとしても、暗黙の指示や、残業しないと処理できない業務量のため、職場に残って業務を行っている時間は労働時間としてみなされるのが一般的です。

また、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合、企業は労働者に対して割増賃金を支払う義務があります。時間外労働の割増賃金は通常の賃金に25%以上を上乗せした金額であり、これがいわゆる「残業代(時間外手当)」です。

さらに、法定労働時間を超えて労働をさせるには、労使間で「36協定」を締結し労働基準監督署に届け出る必要があります。36協定がないままの法定時間外労働や休日労働は、本人が同意していたとしても違法です

労働基準法に違反する行為が認められた場合、企業には罰則が科される可能性があります。働き方に疑問を感じたときは、慣習や空気に流されず、まず法的に問題があるかどうかを確認しましょう

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3、よくあるサービス残業のパターンと対処法

サービス残業はあからさまに命令されるわけではなく、違法かどうかの判断が難しいケースもあります。以下では、よくある残業のパターンと対処のポイントを確認していきましょう。

  1. (1)タイムカードを早めに切らせてから働かせる

    タイムカードを早めに切らせてから働かせる行為は違法となります。

    タイムカードとは、労働者の勤務時間を管理する打刻システムです。「定時で退勤したことにしておいて」などと指示され、仕事が終わる前にタイムカードを切らせる事例があります。

    タイムカードを早めに切ると労働時間の実態と記録が一致せず、サービス残業に直結してしまいます。

    対処法は、タイムカード打刻後に働いた時間の証拠を集めて労働基準監督署や弁護士に相談することです。業務日報やメール・メモなど、日付や時間が記載された証拠をできるだけ多く集めておきましょう。

  2. (2)「自己研鑽」や「任意」の名目で強制参加させる

    自己研鑽や任意と称して勉強会などに強制参加させられた場合、サービス残業に該当する可能性があります。

    任意とされていても、上司からの命令や暗黙の指示によるものであれば、使用者の指揮命令下にある労働時間として判断され、賃金支払いの義務が生じるためです。「自己研鑽」という言葉に惑わされず、事実上の労働時間にあたるかどうかを冷静に判断しましょう

    サービス残業を示す証拠としては、参加依頼のメールや共有されたスケジュール・上司の指示を録音したデータなどが挙げられます。

  3. (3)営業職や裁量労働制を理由に無制限労働を求める

    営業職や裁量労働制を理由に、無制限にサービス残業させることは違法になり得ます

    営業職は「営業手当」や「歩合給」、また裁量労働制は「労働時間に縛られない」として、際限なく働かされるケースがあります。

    ただし、営業職であっても法定労働時間を超える労働には残業代が支給されなければなりません。また、裁量労働制に関しても、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合は残業代が発生します。

    業務日報やメールの履歴などで働いた時間の記録を残し、未払いの残業代があれば請求するようにしましょう。

  4. (4)みなし残業制度で超過分を払わない

    みなし残業制度がある場合でも、規定時間を超えた分は別途残業代を支払う必要があります

    たとえば「月30時間分の残業代込み」とする契約があっても、実際の残業が30時間を超えていれば超過分の残業代が発生します。したがって、超過分が未払いとなっている場合は残業代の請求が可能です。

    未払い残業代を請求する際は、契約時のみなし時間数と実際の労働時間を照らし合わせ、超過時間を計算しましょう。みなし残業制度は正しく運用されれば適法ですが、みなし時間を超えたサービス残業が行われていれば違法となる可能性があります。

4、未払い残業代を請求する方法と注意点

サービス残業を行っている場合は、会社に対して未払い残業代の請求が可能です。

ただし、未払い残業代を請求できる権利には3年の時効があり、早めに行動する必要があります。また、会社との関係が悪化するリスクもあるため、事前に弁護士や労働組合など外部の機関に相談することも検討しましょう

未払い残業代を請求する具体的な方法について、以下で順に解説していきます。

  1. (1)サービス残業の証拠を収集する

    未払い残業代の請求においてもっとも重要なのが、サービス残業の事実を証明するための証拠収集です。会社側が勤怠記録を正しく管理していない場合、自分で働いていた時間を立証する必要があります。

    収集しておくべき主な証拠は、以下のとおりです。

    • タイムカード
    • 業務日報
    • 勤務表
    • メールやチャットの履歴
    • 業務指示の録音

    タイムカードや日報などがない場合には、毎日出勤時間と退勤時間のメモを残しておきましょう。できるだけ多くの証拠を集めることで、残業代を取り戻せる可能性が高くなります。

  2. (2)会社と交渉する

    証拠がそろったら、会社に対して未払い残業代の支払いを求めて交渉します。交渉の際は、事実と証拠にもとづいて冷静に話し合うことが大切です。

    未払い残業代の請求は在職中だけでなく、退職後に行うことも可能です。退職後であれば、証拠の残る内容証明郵便を使って請求書を送付しましょう。

    自分で交渉を行うのが困難な場合は、労働問題に詳しい弁護士への相談を検討してみてください。弁護士は交渉の代行が可能なため、直接話し合う必要がなくなり大幅に負担を軽減できます。

  3. (3)労働審判を申し立てる

    会社との交渉で解決できない場合は、労働審判の申し立てを検討します。労働審判とは、労働者と事業主の労働トラブルを迅速かつ適正に解決するための法的手続きです。

    地方裁判所に労働審判を申し立てると、原則として3回以内の期日で結論が出されます。訴訟よりも短い期間かつ少ない費用で解決が見込める点がメリットです。

    労働審判の内容に納得できない場合は異議申し立てを行うことで、審判の効力は失われ自動的に訴訟手続きへ移行します。

  4. (4)訴訟を提起する

    労働審判で解決しないときは、訴訟(労働裁判)による解決を目指します。
    また、交渉時の会社の対応状況等から、労働審判を申し立てても会社が到底納得する見込がなく異議を申し立てる可能性が高い場合は、労働審判を経ずに訴訟による解決を目指します。

    訴訟を提起することで、未払い残業代に加えて付加金や遅延損害金を請求できる可能性があります。ただし、時間と労力がかかる手続きであるため、十分な証拠を確保したうえで最終手段として検討しましょう。

    また、会社と労働裁判で争う際は、相手側と自力で対等に渡り合うのは非常に難しいため、弁護士による法的サポートを受けることを強くおすすめします。不利な状況にならないように、できるだけ早めに信頼できる弁護士に相談し、具体的な対策を立てましょう

5、まとめ

サービス残業を「仕方ない」と我慢し続ける必要はありません。サービス残業は違法である可能性が高いため、法律を知り、正当な権利として適切に対応することで解決できる可能性があります。

「証拠があるかわからない」「関係悪化は避けたい」などの不安がある方も、まずは弁護士への相談を検討してみてください。

ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスでは、未払い残業代の請求に関するご相談には何度でも無料で対応しております。サービス残業をせざるを得ない状況にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています