残業を私用で拒否するのは違法? 拒否できるケースと対処法を解説

2025年10月20日
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残業を私用で拒否するのは違法? 拒否できるケースと対処法を解説

会社が36協定を締結し、就業規則に残業に関する規定がある場合は、原則として労働者は会社からの残業命令に従わなければなりません。

しかし、なかには「どうしても今日は予定があり残業ができない」というときもあるのではないでしょうか?

本記事では、残業を私用で拒否できるケースや残業命令を拒否する場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。


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1、残業命令とは? 法的に断れないの?

まずは労働基準法の定める残業命令(時間外労働)の基本を詳しく解説していきます。

  1. (1)残業命令とは

    残業命令とは、会社が労働者(従業員、社員)に対して残業するように命令することです。

    労働基準法32条によると、会社は原則として休憩時間を除いて労働者に1日に8時間、1週間に40時間以上の労働をさせてはいけません。しかし、36協定が締結されており、会社の就業規則や労働契約に残業規定がある場合に限り、会社は労働者に残業させることができます。

    「36協定」とは、労働基準法36条に規定されている労使協定です。会社が時間外手当や休日の労働を労働者にさせる場合は、労働組合か労働者の過半数を代表する者と書面による協定をして、労働基準監督署(厚生労働省の出先機関)に届け出る義務が定められています

    つまり、36協定があれば会社が労働者を残業させることが可能になるということです

    ただし、36協定だけでは会社が適法に労働者を残業させることが可能になるだけにとどまるため、個々の労働者に残業義務を課すためには会社の就業規則や労働契約に残業規定を設ける必要があります。

  2. (2)私用の内容や状況により断れる

    就業規則や36協定がある場合は、会社には残業を命じる権利がありますが、労働者が残業命令を絶対に断れないというわけではありません。私用の内容や状況次第で断れる場合があります。

    次章でみていきましょう。

2、私用で残業を断るのは許される? 判断基準と実例

残業命令を私用で断ることは許されるのでしょうか?「私用で断ってもよいケース」と「申し出を拒否されるケース」の判断基準を、実例と共に解説していきます。

  1. (1)残業命令拒否の判断基準

    残業命令拒否の判断基準は、「残業命令が適法かどうか」、そして「拒否する理由が正当かどうか」です。

    36協定と就業規則があっても、会社は労働者に制限なく残業を命じていいというわけではありません。原則として、会社は月に45時間、年間に360時間を超えて労働者に残業をさせてはならないと労働基準法に規定されているのです(労働基準法36条)。

    これを超える残業は違法となるため、労働者は残業命令を拒否することができます。

    また、妊娠中の女性や産後1年を経過していない女性には、残業命令が法律上制限されているため、これを要求されても拒否することが可能です。

    そして、法律上拒否できない正当な残業命令を私用で拒否したい場合、その私用が「正当な理由」に該当すれば、残業命令を拒否することができるでしょう。

  2. (2)私用で断ってもよいケース

    以下のケースに該当する場合、私用が正当な理由に該当するため「残業命令を断ってもよい」と認められる可能性が高いでしょう。

    • 家族の介護や通院
    • 子どもの保育園や幼稚園の迎え
    • 家族が事故に遭った
    • 体調不良
    など
  3. (3)申し出を拒否されるケース

    以下のケースに該当する場合、残業はできないという申し出を会社から拒否される可能性があります。

    • 趣味の予定
    • 恋人とのデート
    • 残業したくない気分だった
    など
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3、残業命令を拒否したときのリスクと違法な圧力

残業命令は正当な理由があれば拒否することが可能です。しかし、正当な理由なく拒否した場合にはリスクがあります。

  1. (1)懲戒処分の可能性

    業務上必要な残業命令を正当な理由なく拒否した場合、懲戒処分を受ける可能性があるでしょう。

    懲戒処分は、会社が企業秩序に違反した労働者に対して科す制裁です。懲戒処分の種類には、軽い処分から順に、戒告、譴責(けんせき)、減給、出席停止、降格、論旨解雇、懲戒解雇といった処分があります。

    法律上拒否できるケースに該当しない場合や、正当な理由がない場合に残業を拒否すると、「雇用契約の義務違反だ」として最悪の場合、懲戒解雇になるおそれもあるでしょう。

    ただし、残業命令を1回拒否した程度では通常は懲戒解雇にはなりません。しかし、正当な理由もないのに何度も繰り返し残業命令を拒否した場合は懲戒解雇になる可能性もあるのです。

  2. (2)会社側の対応が違法になる場合も

    会社側が明らかに違法な長時間残業をさせる場合や、残業拒否に対する報復的な業務指示をしてきた場合、違法になる可能性もあります

    違法な残業命令を受けた場合は以下の機関への相談がおすすめです。

    ① 総合労働相談コーナー
    ② 労働基準監督署
    ③ 弁護士

    詳しくみていきましょう。

    ① 総合労働相談コーナー
    総合労働相談コーナーは都道府県の労働局内にあり、解雇や残業代金未払いなどの労働問題を無料で相談することができます
    基本的には当事者間での解決が求められますが、なかには都道府県労働局長による「助言・指導」や紛争調整委員会による「あっせん」の案内を受けるケースもあるでしょう。
    「助言・指導」は、都道府県労働局長が紛争の当事者に対して紛争の問題点の指摘し、解決の方向を示すことで自主的な紛争解決を促進する制度です。
    「あっせん」は、紛争調整委員会が紛争当事者の間に入り、双方の主張の要点を確かめて調整し、話し合いを促進することで紛争解決を図る制度を指します。
    ケースに応じてさまざまな対応をしてもらうことが可能ですが、原則は「当事者での解決」になる点にご留意ください。

    ② 労働基準監督署
    先程少し触れましたが、労働基準監督署は厚生労働省の出先期間です。労働基準法に基づき、管内の会社を監督指導や、労働関係のトラブル相談を受け付けています
    相談内容次第では、会社に指導や是正勧告をしてもらえる場合もあるため、違法な長時間残業といった対応を改めてもらえる可能性があるでしょう。ただし、指導や是正勧告に法的拘束力はありません。

    ③ 弁護士
    弁護士に相談すれば、違法な残業命令や報復的な業務指示を受けている場合の対応についてのアドバイスを受けることができます。また、残業代請求についても直接会社との交渉を任せることができます。万が一労働審判・訴訟に発展した場合の対応を任せることも可能です。

4、残業を拒否したいときの正しい伝え方と証拠の残し方

残業を拒否したい場合は、感情的にならず、合理的な理由を添えて伝えることが大切です。

正当な理由があれば残業命令は拒否することができます。メールやチャットなど証拠が残る方法でやり取りすれば、後のトラブル防止になるでしょう

また、残業を拒否する場合は他の社員への配慮を忘れてはいけません。残業を拒否した分のしわ寄せが他の社員にいってしまうことも考慮し、日頃から他の社員とコミュニケーションをとっておくことで、協力を得られる可能性が高まります。

ただし、正当な理由を伝えても残業を命じられる場合もあるでしょう。その場合は、総合労働相談コーナーや労働基準監督署、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に相談することで、会社への交渉や労働審判・訴訟など、総合労働相談コーナーや労働基準監督署への相談ではできない法的手続きも任せることができるため、ぜひ弁護士への相談をご検討ください。

5、まとめ

残業命令は必ずしも絶対ではありません。私用の内容や状況によっては断れる余地があるでしょう。

無理に従う必要があるか判断できない場合や高圧的な残業命令が続く場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

その際はぜひベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士にご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています