退職代行の流れとは? 必要な準備や退職後の手続きを弁護士が解説
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千葉労働局が公表したデータによると、令和5年度の職場におけるパワハラの相談件数は2337件であり、前年度から8.6%増加していました。
こうしたパワハラなどの人間関係を理由に離職する場合、退職代行サービスを利用するケースが増えています。
そこで今回は、退職代行サービスの流れや依頼の準備、退職後に必要な手続きについて、ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士がわかりやすく解説していきます。


1、退職代行を相談・依頼する際の流れ
退職手続きの代行を依頼する場合には、どのような流れで退職することができるのでしょうか。ここでは、退職代行の相談・依頼する際の流れについて解説していきます。
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(1)退職代行サービスに相談する
退職手続きを代行してもらいたい場合、まずは利用する退職代行サービスを決める必要があります。退職代行サービスには、次のような種類があります。
- ① 民間の退職代行業者
- ② 退職代行ユニオン(労働組合)
- ③ 弁護士
ひとつずつ、特徴をみていきましょう。
① 民間の退職代行業者
民間の退職代行業者とは、退職の意思をご本人に代理して伝えるサービスです。
退職を言い出す精神的負担を減らす便利なサービスですが、民間の退職代行業者のできることは、「従業員の退職の意思を会社に伝える」だけです。従業員本人に代わって退職条件を交渉したり、未払いの賃金を請求したりすることはできません。
② 退職代行ユニオン(労働組合)
ユニオンとは、中小・零細企業など労働組合を組織していない企業に勤めている従業員が加入することができる外部労働組合のことです。退職代行のユニオン(労働組合)は、使用者に対する団体交渉権を持っているため、未払いの残業代の請求や退職日の調整などについても直接会社と交渉することができます。
ただし、交渉では決着が付かず裁判手続きに発展した場合には、ご本人の代理人として訴訟行為をすることができません。
③ 弁護士
「退職で会社と揉めるおそれがある」「未払い賃金を請求したい」という場合には、弁護士に退職代行を依頼するのがおすすめです。
弁護士であれば、従業員の代理人として退職の意思を会社に伝えるだけではなく、次のようなサポートを行うことができます。- 退職条件の交渉
- 未払いの残業代の請求
- 労働審判や訴訟の代理
特に、サービス残業やパワハラが横行しているような企業の場合には、退職の意思を伝えてもスムーズに退職できず、トラブルに発展するケースが少なからずあります。弁護士が代理人となれば、適切な内容で会社との関係を清算できる可能性が高まります。
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(2)退職する情報を退職代行サービスに共有する
依頼先が決まれば、退職者の個人情報や、退職希望日などの情報を退職代行サービスに共有します。
退職代行サービスに共有する必要がある情報としては、次のようなものがあります。- 退職者の氏名、生年月日、住所、連絡先電話番号
- 会社の名前や配属部署
- 正社員、アルバイトなどの雇用形態
- 勤務期間
- 退職を希望する日
- 退職の理由
- 年次有給休暇の残り日数
- 未払いの賃金や退職金の有無
退職代行だけなのか、未払い残業代請求なども依頼したいのかなどによって内容が変わるため、まずは依頼先に確認してみましょう。
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(3)料金相場と支払い方法
退職代行サービスを利用する場合には費用がかかります。各サービスの相場は以下のとおりです。
- 民間の退職代行サービス相場:2万~5万円
- 退職代行ユニオンの相場:2万~3万円
- 弁護士費用の相場:5万~13万円
費用は、提供されるサービスの内容や対応範囲等によって変動するため、事前に費用について見積もりを出してもらうようにしましょう。
一般的な退職代行サービスの費用の支払い方法は、銀行振込による前払いのほか、最近ではクレジットカード払いやキャッシュレス決済、後払いにも対応しているケースもあります。 -
(4)退職代行の依頼先が会社へ退職を連絡する
依頼先に正式に退職代行を依頼すると、電話やメール、郵送などで会社に退職の意向が伝わります。
その連絡の際には、有給休暇の取得や退職日などと併せて「今後は本人への直接連絡は差し控え、代行者を通じてやり取りするように」という希望も伝えられるため、会社と直接連絡をとる必要もなくなります。
単純な退職代行の事例であれば、1度の連絡で退職手続きが完了することもあります。一方で、調整が必要な事項が多い場合には、複数回のやり取りが生じる可能性もあります。 -
(5)退職に関する書類を受け取る
退職の日程や退職条件がまとまれば、退職代行業者から報告が入ります。
退職の後は、会社から「離職票」や「源泉徴収票」が交付されたり、「健康保険証」などの返却が行われるのが一般的な流れです。なお、「退職証明書」は依頼しないと発行されないことが多いため、必要な場合は必ずその旨を伝えてもらうようにしましょう。
上記の書類は、失業保険を受け取ったり、転職したりする際に必要となりますので、届かない場合には退職代行業者に連絡して対応してもらう必要があります。
2、退職代行を依頼する前に必要な準備
退職代行サービスにスムーズに依頼する前にどのような事前準備をしておくとよいのでしょうか。ここでは、退職代行業者に依頼する前の必要な準備について解説していきます。
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(1)有給休暇を確認する
まず、現時点で有給休暇があとどのくらい残っているのかを確認しましょう。
会社に6か月以上勤務しており、すべての労働日の80%以上を出勤していれば、1年間に10日以上の年次有給休暇が与えられているのが通常です。
有給休暇を消化せずに退職すると、その権利を放棄することになってしまうため、退職代行業者には忘れずに伝えるようにしましょう。有給休暇の残日数については、給与明細に記載されていることが一般的ですので、退職代行サービスを利用する前に直近の給与明細で確認しておきましょう。 -
(2)資料作成など引き継ぎの準備を終わらせておく
現在の業務を後任者に引き継ぐことは、法律で定められている義務ではありませんが、会社側は業務を円滑に進めていくため、従業員に対して退職前の引き継ぎ義務を就業規則で定めていたり、業務命令として引き継ぎ命令を出したりすることができます。
そのため、円滑な退社のためには、業務のまとめや書類の引き渡しなど最低限の引き継ぎ準備を終わらせておくことが望ましいといえます。引き継ぎを一切行わずに退職代行業者を利用した場合には、会社と揉める可能性が高まるおそれがあります。 -
(3)会社の備品などを返却できるようにしておく
退職代行サービスに依頼する前に、会社に貸与されていた備品をロッカーなどにまとめ、個人の私物を持ち帰っておくようにしましょう。在宅勤務の場合は、会社から貸与されたパソコンや社員証などは宅配便などで送り返すことになります。
なお、会社の備品を返却しなかった場合、損害賠償請求を受けるおそれがあります。返却の際には、追跡可能な送付方法を選び、返却の証拠を残しておくと安心です。
3、退職代行を利用して会社を辞めた後に必要な手続き
それでは、退職代行を利用して会社を辞めた後にはどのような手続きが必要となるのでしょうか。ここでは退職後に必要となる、失業保険・国民健康保険・国民年金の手続きについて解説します。
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(1)失業保険
失業保険とは、正式には雇用保険の「基本手当」といい、労働者の生活の安定と再就職の促進のために支給される給付金です。過去2年間に雇用保険に1年以上加入していた場合に受給することができます。
失業保険を受け取るためには、以下の必要書類を準備して管轄のハローワークで申し込みをします。- 離職票
- 本人確認書類
- 印鑑
- 振込先口座確認のための通帳もしくはキャッシュカード
給付開始までには1~3か月の期間があるため、早めに申請手続きを行いましょう。
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(2)国民健康保険
退職日の翌日から健康保険の資格を喪失することになるため、以下のいずれかの手続きで新たな健康保険に加入する必要があります。
- 健康保険の任意継続
- 国民健康保険への切り替え
- 被扶養者として家族の健康保険に加入する
任意継続は、退職後20日以内に健康保険組合に申請します。
健康保険から国民健康保険に切り替えるためには、退職してから14日以内に市区町村で手続きを行う必要があります。いずれの場合も、早めに対応を進めましょう。 -
(3)国民年金
厚生年金に加入していた方は、退職してすぐに転職しない、もしくは専業・パート主婦(夫)になる場合は、国民年金に加入する必要があります。
もっとも、配偶者が厚生年金に加入している場合は、第3号被保険者(扶養者)としての届け出が可能ですので、国民年金に加入して保険料を自己負担する必要はありません。
国民年金の手続きは、退職から14日以内に住所地の市区役所、町村役場または年金事務所で行う必要があります。
4、退職代行は弁護士に相談するべき3つの理由
ここでは、退職代行を弁護士に相談すべき3つの理由についてご紹介します。
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(1)未払い残業代がある場合は請求できる
弁護士に依頼した場合、退職代行だけでなく未払いの残業代の請求も代理してもらうことが可能です。
また、残業代を計算するためには、1か月あたりの賃金や正確な残業時間を把握する必要がありますが、弁護士に依頼することでそのために必要な資料等がわかり、資料等が揃えば適正な金額を算出してもらうこともできます。 -
(2)会社との交渉を任せられる
弁護士に依頼すれば、退職条件や退職金などの交渉も任せることができます。
民間の退職代行業者の場合には、会社から不当な要求や条件が提示されたとしても、有効な反論ができないおそれがあります。
しかし、労働問題の実績がある弁護士であれば、豊富な知識や経験に基づいて法的に有効な反論をすることができ、依頼者の希望に沿う解決ができる可能性が高まります。 -
(3)労働審判や訴訟などのサポートを受けられる
退職に際して会社との交渉がこじれて労働紛争に発展した場合であっても、弁護士であれば引き続き対応が可能です。民間の退職代行業者や労働組合では、個別の事案で労働者の代理人として訴訟行為をすることはできません。
しかし、弁護士であれば、労働審判や訴訟などの裁判手続きについても、従業員の代理人として対応することができるのです。
お問い合わせください。
5、まとめ
退職代サービスに依頼すると、基本的に依頼者ご本人は会社と直接連絡をとる必要がなくなります。
ただし、退職代行サービスを利用しても「会社が退職に応じない」「給与や残業代の未払いがある」などのケースでは、会社と交渉が必要になる可能性があります。トラブルを回避し、スムーズに退職したい場合には、弁護士に退職代行を依頼することがおすすめです。
退職でお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所 木更津オフィスにお問い合わせください。退職トラブル、労働問題の実績がある弁護士が解決に向けて尽力いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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