就業規則と雇用契約書の違い|優先順位や企業が注意すべきこと

2025年05月26日
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就業規則と雇用契約書の違い|優先順位や企業が注意すべきこと

令和5年度に千葉県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は5万318件でした。

就業規則と雇用契約書(労働契約書)は、いずれも雇用の条件を定めるものです。両者の位置づけや優先順位などは、労働契約法や労働基準法などの法令で定められています。弁護士のサポートを受けながら、就業規則と雇用契約書をそれぞれ適切に整備しましょう。

本記事では、就業規則と雇用契約書の違いや、両者を見直す際の注意点などをベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。

1、就業規則と雇用契約書の違いは?

就業規則と雇用契約書は、いずれも雇用契約の条件を定めるものですが、両者の位置づけは異なっています。
まずは、就業規則と雇用契約書がそれぞれどのようなものであるかを確認しておきましょう。

  1. (1)就業規則とは

    「就業規則」とは、事業場全体における労働条件や服務規律などを定めた社内規程です

    就業規則は原則として、事業場に所属する労働者(従業員)全員に適用されます。

    ただし、一部の労働者について就業規則の適用を除外し、別の就業規則を適用することも可能です。たとえば、契約社員やパート・アルバイトには正社員と異なる就業規則を適用している例などが見られます。

    また、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出なければなりません(労働基準法第89条)。
    常時使用する労働者の人数は、会社全体ではなく事業場単位で判定されます。たとえば、会社全体の労働者が1000人以上いても、事業場の労働者が10人未満しかいなければ、その事業場において就業規則の作成は必須ではありません。

    就業規則の記載事項は、以下3種類に分類されます。

    ① 絶対的必要記載事項
    就業規則に必ず定めなければならない事項です。
    • 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに交替制の場合は就業時転換に関する事項
    • 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算・支払の方法、賃金の締め切りおよび支払の時期ならびに昇給に関する事項
    • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

    ② 相対的必要記載事項
    定める場合には、就業規則に記載しなければならない事項です。定めない場合は記載不要です。
    • 退職手当に関する事項
    • 臨時の賃金等(退職手当を除く)および最低賃金額に関する事項
    • 労働者の食費、作業用品その他の負担に関する事項
    • 安全および衛生に関する事項
    • 職業訓練に関する事項
    • 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
    • 表彰および制裁に関する事項
    • 上記のほか、当該事業場の全ての労働者に共通して適用される事項

    ③ 任意的記載事項
    就業規則の記載事項のうち、絶対的必要記載事項または相対的必要記載事項に該当しないものです。公序良俗や労働基準法などの強行規定に反しない限り、自由に定めることができます。
    ※常時使用する労働者が10人未満の事業場では、就業規則の記載事項はすべて任意です。
  2. (2)雇用契約書とは

    「雇用契約書」とは、使用者と労働者の間で締結する契約書で、労働条件や雇用のルールなどを定めたものです

    原則として事業場の労働者全員に適用される就業規則とは異なり、雇用契約書は使用者が労働者1人ずつと個別に締結します。
    したがって雇用契約書には、主に給料や雇用形態など、労働者ごとに異なる労働条件を定めることになります。

    雇用契約書の作成は、就業規則とは異なり、事業場の規模を問わず必須ではありません。また、雇用契約書の記載事項は特に法律上明示されていません。

    ただし、雇用契約書の締結に当たっては、以下の事項を記載した「労働条件通知書」を労働者に交付する必要が あります(労働基準法第15条第1項後段、労働基準法施行規則第5条第3項・第4項本文)。

    雇用契約書が労働条件通知書を兼ねる場合は、下記の事項を雇用契約書に記載しなければなりません。

    • 労働契約の期間
    • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む)
    • 就業の場所および従事すべき業務(就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲を含む)
    • 始業および終業の時刻
    • 所定労働時間を超える労働の有無
    • 休憩時間
    • 休日
    • 休暇
    • 労働者を二組以上に分けて、就業させる場合における就業時転換に関する事項
    • 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く。)決定、計算および支払の方法、ならびに締め切りおよび支払の時期、昇給に関する事項
    • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
    • 契約期間内に無期転換を申し込めるようになる有期労働契約を締結する場合は、無期転換申し込みに関する事項および無期転換後の労働条件
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2、就業規則と雇用契約書の優先順位は?

就業規則と雇用契約書の内容が異なる場合は、労働者にとって有利な方が適用されます

就業規則の労働条件の方が労働者にとって有利であれば、雇用契約の方の当該労働条件が無効になります(労働契約法第12条)。
反対に、雇用契約の労働条件の方が労働者にとって有利であれば、その部分は就業規則上の労働条件に優先します(同法第7条ただし書き)。

3、就業規則や雇用契約書を見直す際の注意点

就業規則や雇用契約書のひな形を見直す際は、特に以下のポイントに注意しましょう。

  1. (1)就業規則の適用範囲を明確化する

    就業規則は原則として事業場の全労働者に適用されますが、別段の定めをすれば、一部の労働者について別の就業規則を適用することもできます。

    適用する就業規則を労働者ごとに分ける場合は、誰に対してどの就業規則が適用されるのかを明確に定めましょう。

  2. (2)どちらか一方を変更する場合は、整合性を保つ

    就業規則と雇用契約書のひな形のどちらか一方を変更する場合は、できる限り矛盾がないように整合性を保つことが大切です。

    就業規則と雇用契約書の内容が矛盾していても、最終的には労働契約法のルールによってどちらが優先するかが決まります。

    しかし、内容の矛盾は労使トラブルの原因になり得るので、極力矛盾がないように整合性を確認しましょう。

  3. (3)公序良俗や労働基準法に反する内容は定められない

    公序良俗に反する就業規則や雇用契約書の定めは、無効です(民法第90条)。

    また、労働基準法に反する労働条件を就業規則や雇用契約書で定めた場合も、その定めは無効となり、同法による最低ラインの労働条件が適用されます(労働基準法第13条)。

  4. (4)就業規則の変更による労働条件の不利益変更は、原則不可

    すでに雇用している労働者の労働条件を、労働者と合意することなく、就業規則の変更によって労働者の不利益に変更することは、原則として認められません(労働契約法第9条)。

    ただし例外的に、以下の①~③の要件をすべて満たす場合には、就業規則の変更による労働条件の不利益変更が認められます(同条但し書き、同法第10条)。

    ① 変更後の就業規則を労働者に周知させること

    ② 就業規則の変更が、以下の就業規則の変更に係る事情に照らして「合理的なもの」であること
    • 労働者の受ける不利益の程度
    • 労働条件の変更の必要性
    • 変更後の就業規則の内容の相当性
    • 労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情

    ③ 労働者および使用者の間で、就業規則の変更によっては変更されない労働条件として、合意していた部分でないこと
    ※就業規則で定める基準に達しない労働条件を除く


    就業規則の定めを労働者にとって不利益に変更する場合は、それによって既存労働者の労働条件がどの程度不利益に変更されるのか、労働者および使用者の間で就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分でないかどうか等、上記①②③を、法的な観点から確認しましょう。

  5. (5)就業規則の変更は、届け出が必要な場合がある

    常時10人以上の労働者を使用する事業場において、就業規則の絶対的必要記載事項または相対的必要記載事項を変更した際には、労働基準監督署に対して届け出を行う必要があります(労働基準法第89条)。

    就業規則の作成や変更の届け出に当たっては、労働組合または労働者の過半数代表者に作成や変更に関する意見書を作成してもらい、その意見書を添付しなければなりません(同法第90条)。

    届出書と労働者意見書の参考書式は、厚生労働省のウェブサイトに掲載されているので参考にしてください。

4、人事・労務管理について弁護士に相談するメリット

就業規則や雇用契約書ひな形の見直しを含めて、人事・労務管理に関する課題が生じた場合には、弁護士に相談することをおすすめします

人事・労務管理について弁護士に相談することの主なメリットは、以下のとおりです。

  • 労働法令を踏まえた適切な労務管理の方法についてアドバイスを受けられる
  • 労働法令の改正にもスムーズに対応できる
  • 労働者とのトラブルを未然に防ぐための対策やサポートを得られる
など


人事・労務管理の体制を強化したい企業は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

5、まとめ

就業規則は原則として事業場の全労働者に適用されますが、雇用契約書は使用者が各労働者と個別に締結し、その労働者だけに適用されます。
就業規則と雇用契約書の内容が矛盾する場合は、労働者にとって有利な条件が適用されるというのが基本的な考え方です。

就業規則や雇用契約書のひな形を見直す際には、労働法令の規定を踏まえて、労働者とのトラブルを回避できるような対策に努めましょう。
弁護士のアドバイスを受ければ、労使トラブルを未然に防ぐことができます。

ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。就業規則や雇用契約書ひな形の見直し、その他の人事・労務管理に関するお悩みは、お気軽にベリーベスト法律事務所 木更津オフィスへご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています