価格転嫁の交渉ポイント|法律を味方につける顧問弁護士のすすめ
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千葉県の地域別最低賃金が2023年10月1日付より1026円に引き上げられました。以前の984円から42円の引き上げとなります。
最低賃金は全国的に上昇傾向にあるものの、特定の親事業者に売上の大部分を依存している下請事業者は、親事業者によって商品やサービスを買いたたかれてしまうケースがよく見られます。
原材料価格やエネルギー価格の高騰が進む中で、親事業者に対しても適切に価格転嫁を行うためには、下請法などの法律を背景に交渉することが効果的です。
本記事では、下請事業者が親事業者に対して価格転嫁交渉を行う際のポイントや、親事業者との取引について顧問弁護士ができるサポートなどを、ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。
出典:「千葉県最低賃金改正のお知らせ」(千葉労働局)
1、下請事業者が親事業者と価格交渉を行う際のポイント
親事業者に取引(売上)の大部分を依存している下請事業者は、取引を打ち切られてしまうことに対する恐れから、親事業者に言われるまま安い価格で受注をしてしまいがちです。
しかし、原材料価格やエネルギー価格などが高騰している場合には、それを適切に取引価格に反映させなければ、下請事業者の経営は早晩苦しくなってしまいます。以下のポイントに留意しつつ、親事業者との間で価格交渉を行い、適切な価格で取引を行うように努めましょう。
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(1)原価などのコストを具体的に示して交渉する
帝国データバンクの資料によると、原材料価格やエネルギー価格などの価格転嫁に成功した企業のうち45.1%は、「原価を示した価格交渉」が有効であったと回答しています。
その一方で、製品やサービスの原価計算ができていないために、価格交渉が困難となっている事例も散見されるようです。
親事業者との価格交渉を成功させるためには、仕入れのコストや投入した時間(人件費)などから定量的に原価を計算し、客観的なデータとして親事業者に示すことが効果的と考えられます。
支援機関や業界団体が提供する原価計算ツールを活用するほか、業界新聞・専門誌・官公庁のウェブサイトなどから原価の根拠となる客観的なデータを収集するなどし、親事業者との価格交渉に備えましょう。
出典:「価格交渉ハンドブック〜価格転嫁の実現に向けた交渉準備〜(初級編)」p3(中小企業庁取引課) -
(2)スペックダウン・工数の削減などを提案する
単純な値上げが難しい場合は、製品のスペックダウンや工数の削減を提案することも考えられます。スペックダウンや工数の削減によって原価が下がれば、取引価格を大幅に引き上げずとも、一定以上の利益を確保することが可能となります。
親事業者側のニーズは、スペックダウンや工数の削減をしても満たせる場合があります。交渉の中で親事業者が何を求めているのかを探った上で、親事業者が受け入れられると思われる提案を行いましょう。 -
(3)下請法の規制を背景として交渉する
取引の種類に応じて、親事業者と下請事業者の資本金額が下表の条件を満たす場合には、下請法(下請代金支払遅延等防止法)が適用されます。
取引の種類 親事業者(発注側企業)の資本金額 下請事業者(受注側企業)の資本金額 - 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託のうち、プログラムの作成委託
- 役務提供委託のうち、運送、物品の倉庫保管および情報処理委託
3億円超 3億円以下 1000万円超3億円以下 1000万円以下 - プログラムの作成委託以外の情報成果物作成委託
- 運送、物品の倉庫保管および情報処理委託以外の役務提供委託
5000万円超 5000万円以下 1000万円超5000万円以下 1000万円以下
下請法が適用される取引については、親事業者による下請事業者を搾取するような各種の行為が禁止されています。
下請法に基づく親事業者の禁止行為の一つに「買いたたき」があります。買いたたきとは、下請事業者の給付の内容と同種または類似の内容の給付に対して通常支払われる対価に比べ、著しく低い下請代金の額を不当に定めることです(下請法第4条第1項第5号)。
公正取引委員会が公表している運用基準では、価格交渉・価格転嫁に関して、以下の親事業者の行為は買いたたきに該当するおそれがあると示されています。
- 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。
- 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。
出典:「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(公正取引委員会)
特に、親事業者が価格交渉に応じない場合は、その態度が下請法違反に当たる可能性を指摘すれば、親事業者を交渉のテーブルにつかせることができる可能性があります。
2、価格交渉・価格転嫁を支援する行政のサポート体制
中小企業庁は、全国47都道府県に設置されているよろず支援拠点に「価格転嫁サポート窓口」を設置し、下請事業者の価格交渉・価格転嫁をサポートしています。
親事業者との価格交渉がうまくいかずに悩んでいる下請事業者は、価格転嫁サポート窓口に相談してみましょう。
参考:「下請中小企業の価格交渉・価格転嫁を後押しするため、全国のよろず支援拠点に相談窓口を設置するなど、サポート体制を整備します」(経済産業省)
3、親事業者に買いたたかれている場合の対処法
商品やサービスを親事業者に買いたたかれている場合は、以下の対応を検討しましょう。
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(1)別の取引先を探す
親事業者に取引(売上)の大部分を依存している下請事業者は、別の取引先を探すことも検討しましょう。親事業者への取引依存度が低下すれば、強い態度で価格交渉ができるようになります。
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(2)公正取引委員会に通報する
親事業者が価格交渉に全く応じない場合や、価格を据え置くように不当な圧力をかけてくる場合は、下請法違反に当たる可能性があります。
親事業者の下請法違反は、公正取引委員会に通報すれば調査を行ってもらえる場合があります。違反事実が判明すれば、公正取引委員会による勧告および公表処分の対象となるため、親事業者の交渉態度の改善が期待できるでしょう。 -
(3)弁護士に相談する
親事業者に不当な買いたたきをやめさせるためには、弁護士を通じて交渉することも効果的です。後述するように、親事業者との価格交渉に関して、弁護士は幅広くサポートを行っています。
公正取引委員会に親事業者の違反行為を申告しても、必ず対応してもらえるとは限りません。これに対して、弁護士にご依頼いただければ、下請事業者の代理人として迅速にご対応いたします。
4、親事業者との価格交渉について、顧問弁護士ができるサポート
親事業者との価格交渉については、顧問弁護士に相談することをおすすめします。
顧問弁護士は、親事業者との価格交渉に関して、主に以下のサポートを行っています。
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(1)独占禁止法・下請法違反の指摘
親事業者に買いたたかれている場合においては、弁護士を通じて独占禁止法違反や下請法違反を指摘することが打開の糸口になり得ます。
弁護士が法的な根拠に基づき、独占禁止法違反や下請法違反の事実を指摘すれば、親事業者が交渉態度を改める可能性があります。 -
(2)価格交渉の方針のアドバイス・代理
弁護士は、法律に加えて実際の取引関係なども踏まえた上で、下請事業者がどのように親事業者と価格交渉を行うべきかについて総合的にアドバイスいたします。
下請事業者が親事業者と対等に価格交渉をするのは大変ですが、弁護士のサポートを受ければ建設的な交渉ができるでしょう。弁護士を表に出さず、下請事業者が自ら交渉する場合でも、弁護士のバックアップを受ければ心強い味方となります。
弁護士は代理人として、下請事業者に代わって親事業者と価格交渉を行うこともできます。法律の専門家という立場にある弁護士を通じて要望を伝えることにより、親事業者が取引条件を再考するに至るケースも少なくありません。
親事業者との価格交渉にお悩みの下請事業者は、弁護士へのご依頼をご検討ください。
5、まとめ
親事業者との価格交渉を成功させるためには、原価に関する客観的なデータを示した交渉、スペックダウンや工数削減の提案、下請法違反の指摘などが効果的です。弁護士にご相談いただければ、効果的と思われる価格交渉の方法・方針についてアドバイスいたします。
ベリーベスト法律事務所
木更津オフィスは、中小企業経営に関するご相談を随時受け付けております。ニーズに応じてご利用いただける顧問弁護士サービスもご用意しておりますので、親事業者との価格交渉などにお悩みの際は、当事務所までご相談ください。
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