面会交流の履行勧告|面会交流が約束通りに実施されない場合の対応
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令和4年、木更津市では213件の離婚が成立しました。
子どもがいる夫婦が離婚をするときに必ず決めなければならないのが「親権者」です。子どもは親権者と暮らすのが通常ですが、非親権者と子どもが一緒に暮らすという場合もあります。
子どもと一緒に暮らす親を「監護親」、離れて(別居して)暮らす親を「非監護親」といいます。非監護親は子どもと「面会交流」を行うことができ、直接会ったり手紙を送ったりして離婚後も子どもと交流をすることができます。
しかし、なかには、離婚時に面会交流の約束をしていたとしても、その約束を守らず子どもと非監護親を会わせない監護親もいます。面会交流が約束通りに実施されない場合、どのような対応ができるのでしょうか? ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。
1、面会交流させてくれない場合の対応
子どもは面会交流を通して、離婚後も両方の親からの愛情を感じることできます。そのため、面会交流をする権利(面会交流権)は非監護親のためだけではなく、子どものためにも大切な権利であるとされています。
面会交流についての取り決めは、原則的には離婚時に夫婦間で話し合って行います。しかし、なかには約束を破って非監護親と子どもを面会交流させない監護親もいるのです。
話し合いで取り決めをしたにもかかわらず、面会交流を拒否された場合、非監護親がとるべき対応は「家庭裁判所に面会交流の調停を申し立てて話し合いの場を設けること」です。
「面会交流調停」は当事者に加えて調停委員と調査官と裁判官を交えて以下の内容を話し合います。
- 面会交流権を非監護親に認めるか否か
- 面会交流の頻度・時間・場所
- 面会交流の方法(電話やメール、手紙、直接会うかなど)
調停では調停委員や調査官からアドバイスをもらいながら当事者間で協議します。調停が成立する(話し合いがまとまって合意に至る)と裁判所に「調停調書」を作成してもらえます。
一方、調停が不成立となった(話し合いがまとまらず決裂した)場合は自動的に審判に移行します。審判では裁判官が面会交流について判断を下します。その審判に対して不服申立てがあれば、さらに高等裁判所で審理が行われます。
2、面会交流の履行勧告とは
面会交流を実施する内容の調停が成立し、または裁判所が面会交流の実施を命じる審判を下してそれが確定したにもかかわらず、それでも監護親が面会交流を実施しない場合は、「履行勧告」を申し立てましょう。
履行勧告とは具体的にどういうものなのか、その注意点と併せて解説していきます。
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(1)履行勧告とは
調停または審判で決まった面会交流が実施されない場合に、家庭裁判所から監護親に対して面会交流を実施するよう口頭や書面などで説得、勧告してもらう手続が「履行勧告」です。
履行勧告は、家庭裁判所に口頭もしくは書面で申し出をして行ってもらいます。申出書のひな型は裁判所のホームページに用意されています。また手続の費用はかかりません。
簡易に無料で利用できる手続ですが、裁判所からの連絡によって相手にプレッシャーを与えることができるため、これだけでも面会交流に応じてもらえる可能性があります。これが履行勧告のメリットです。 -
(2)履行勧告の注意点
もっとも、履行勧告の手続をとる上で気をつけておきたいことがあります。以下の2点です。
① 履行勧告に強制力はない
家庭裁判所の履行勧告には強制力はなく、従わなかったとしても罰則もありません。したがって、履行勧告をしてもらっても、面会交流を拒否される場合ももちろんあり得ます。
履行勧告をしてもらえれば必ず面会交流が実現するというわけではないことに注意しておきましょう。
② 面会交流を公正証書や離婚協議書で取り決めただけでは、履行勧告の申し立てができない
履行勧告の対象は裁判手続を経て作成される「調停調書」や「審判」などに記載のある内容に限ります。そのため、履行勧告をするためには必ず調停や審判などの裁判手続を経ておかなければなりません。
裁判手続外で行った話し合いを経て離婚協議書や公正証書を作成していても、それでは履行勧告を利用できないので、必ず調停などを申し立てて面会交流の取り決めを行うようにしましょう。
3、面会交流の履行勧告を拒否された場合は?
履行勧告を行ってもなお面会交流を拒否されてしまったという場合、取り決めの内容(調停調書ないし審判主文の記載内容)によっては「間接強制」という手続を利用することもできます。また、面会交流の不当な拒否は慰謝料請求の理由になる可能性もあります。
「間接強制」の内容と「慰謝料請求」の可能性について詳しくみていきましょう、
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(1)間接強制
義務を守らない相手には「強制執行」という法的手続を利用して義務を履行させることが通常です。強制執行には「直接強制」と「間接強制」という方法があります。
「直接強制」は直接的に義務(債務)を履行させる方法です。たとえば、お金を支払うべき義務を負っているにもかかわらず支払わない相手の預金や給与を差し押さえ、そうすることによって強制的に支払いを履行させる(お金を回収する)という方法です。
しかし、面会交流については「直接強制」は認められていません。誰かが無理やり(力づくで)監護親のもとにいる子どもを連れてきて非監護親と面会交流をさせるという荒っぽいことまではしないのです。
面会交流について利用できる強制執行は「間接強制」になります。「間接強制」とは、面会交流を拒否している監護親に対し、拒否するたびに一定額の制裁金(間接強制金)を支払わせることで心理的圧迫を加え、自発的な履行を促す方法です。面会交流を拒否するとその都度お金を支払わなければならないというプレッシャーをかけることで面会交流に応じてもらいやすくなります。
ただし、面会交流について間接強制の手続をとるためには、調停や審判で面会交流の実施方法を具体的に特定しておく必要があります。以下の3つは具体的かつ明確に定めておくべきです。- 面会交流の日時・頻度
- 各回の面会交流時間(何時から何時までか)
- 子どもの引渡し方法
調停・審判で、たとえば「毎週会う」「月に1回は面会する」というような抽象的な内容しか取り決めていなかった場合、間接強制を行うことは難しくなります。しかし、上記の3つを具体的かつ明確に取り決めておけば、現実的に実行は困難であると認められるよほどの事情がない限り、「間接強制」を命じてもらうことができます。
そのため、調停・審判では、できる限り具体的かつ明確に面会交流の実施方法について取り決めておくように気をつけましょう。 -
(2)慰謝料請求
「慰謝料」とは、相手の不法行為によって被った精神的苦痛に対する損害賠償金のことです。以下の3つの条件を満たした場合は、面会交流の拒否を理由に慰謝料請求できる可能性があります。
① 面会交流について具体的に取り決めている
慰謝料請求をする際にも、面会交流について具体的な取り決めがあったという事情が必要です。
必ずしも調停・審判を介した取り決めをしている必要はありませんが、具体的な取り決めがあったことを証明するため、「合意書」や「離婚協議書」等の書面(証拠)が必要となることはあります(③で後述)。
② 面会交流の拒否に強度な違法性がある
慰謝料請求をするには相手の面会交流拒否は不法行為に当たるといえることが必要であり、そのためには相手の行為に「違法性」がなければなりません。
たとえば、非監護親のことが嫌いだからといった不当な理由で長期にわたり面会交流を拒否しているようなケースは、強度な違法性があると認められる可能性が高いといえます。
③ 面会交流の条件や拒否の証拠がある
①②の条件を満たして慰謝料を請求し、相手がすんなり支払いに応じてくれれば証拠は特に必要ありません。しかし、そのようなことは極めて稀でしょう。その場合は訴訟による解決を図ることになりますが、訴訟となった場合には証拠が必要になってきます(事実関係について相手が全く争わないということは通常考えられないため)。
訴訟に進む場合には、面会交流の具体的な条件が記載されている「調停調書」「審判書」「離婚協議書」等、面会交流の実施に関する当事者間のやりとり(メール、LINE等)などを証拠としてそろえておくようにしましょう。
4、面会交流が実現できない場合は弁護士に相談を
面会交流に関してトラブルが発生している場合、弁護士への相談がおすすめです。
面会交流に関するトラブルには当事者の感情が強く絡んでいることが多いので、当事者だけで話し合いを続けていても埒が明かず、それどころかかえって感情対立を深めてしまう結果にもなりかねないのですが、そこに第三者である弁護士が入ることである程度冷静に話し合うことができるようになり、面会交流を実施する方向で話し合いが進んでいく可能性が高まります。
トラブルの初期段階から弁護士に依頼することで、調停や審判などの裁判手続に移行する際もスムーズな対応が可能になります。さらに、弁護士に依頼すれば、慰謝料請求の証拠集めのアドバイスなど幅広いサポートを受けることができ、安心して手続を進めることができるでしょう。
面会交流に関するトラブルについては、離婚トラブルの解決実績が豊富な弁護士に相談してみましょう。
5、まとめ
面会交流は非監護親にとっても子どもにとっても大切なことですが、離婚協議書などで面会交流の取り決めをしても、それを守らず子どもと会わせてくれない監護親も存在します。
正当な理由なく面会交流を拒否された場合は、家庭裁判所に面会交流調停を申し立てることを検討してみましょう。それでも監護親が調停や審判の決定に従わず面会交流を拒み続けた場合には、履行勧告を利用することができます。
それでも面会交流が実施されない場合には、間接強制による履行の確保や慰謝料請求という法的手段を検討することになります。
面会交流に関するトラブルには当事者だけで解決することが難しいケースも珍しくありません。お困りの際にはぜひベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士にご相談ください。
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