「不貞行為なしの精神的苦痛」で慰謝料請求できる? 相場は?

2024年03月12日
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「不貞行為なしの精神的苦痛」で慰謝料請求できる? 相場は?

2022年版の木更津市統計書によると、木更津市の離婚件数は213件でした。

離婚にあたって金銭問題は重要なことのひとつです。特に配偶者に不貞行為があった場合には、慰謝料請求ができることをご存じの方は多いでしょう。他方、“不貞行為なし”だった場合でも、「精神的な苦痛」を立証できれば、慰謝料を請求できる可能性があります。

そこで、この記事では、不貞行為がない場合でも慰謝料請求できる場合や、慰謝料の相場に影響を与える重要な考慮要素などについてベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が詳しく解説していきます。


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1、不貞行為なしでも精神的苦痛を慰謝料請求できるのか?

  1. (1)そもそも不貞行為とは?

    「不貞行為」とは、配偶者のある者が自由な意思(強制ではない本人の意思)に基づいて配偶者以外の第三者と性的・肉体的関係を結ぶことです。

    民法は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」として、同居協力扶助義務を規定しています(民法752条)。そして、「配偶者に不貞な行為があったとき」には、裁判(離婚の訴え)によって離婚を請求することができると規定しています(民法770条1項1号)。

    これらの規定から、夫婦は相互に貞操を守る義務を負っていると考えられています。そのため、夫婦の一方がこの貞操義務に違反して第三者との間で性的・肉体的関係を持った場合には、他方配偶者の「婚姻共同生活の平和の維持」という権利ないし法律上保護に値する利益を侵害したといえます。

  2. (2)不貞行為がない場合でも慰謝料請求できる可能性あり

    配偶者が不貞行為をした場合には、不法行為に基づく慰謝料を請求することもできます。不法行為に基づく慰謝料は、加害者の不法行為によって権利・利益を侵害され、それによって精神的苦痛を被った場合に、その精神的苦痛という損害を賠償してもらうために支払ってもらう損害賠償金のことをいいます。

    それでは、不貞(性行為)はないものの、非常に親密な関係でデートなどを繰り返しているという場合には、慰謝料は請求できるのでしょうか。

    前述のとおり、性的関係や肉体関係(性交ないし性交類似行為)がないと不貞行為には該当しません。したがって、上記の場合には「不貞行為を理由とする」慰謝料の請求はできません。

    しかし、たとえ不貞行為に当たるほどの行為がなくても、配偶者や相手方である第三者に対して慰謝料請求ができる可能性もあります

    • キスやハグなど身体的接触を頻繁に行っていた
    • 特定の異性と頻繁に密会を繰り返していた
    • 宿泊をともなう外出を行っていた
    • メールやSNSで恋愛関係にあると認められるような親密なやり取りをしていた
    • 高額なプレゼントを贈っていた


    以上のような事情がある場合には、他方配偶者の「婚姻共同生活の平和の維持」という権利ないし法律上保護に値する利益を侵害したと判断される可能性があるのです。そして、そのような判断がなされた場合には、それによって被った精神的苦痛に対する慰謝料の支払いが認められることになります。

    ただし、不貞行為がない場合には、不貞行為があった場合と比較して、損害(精神的苦痛)は小さいと判断される傾向もあります。

    不貞行為はないものの「婚姻共同生活の平穏」を害されたとして慰謝料を請求する場合には、上記のような行為が何度も繰り返されており、配偶者の意思に反して特定の第三者と親密な関係を長期にわたって継続しているという事情などが重要なポイントとなるでしょう。

2、不貞行為なしの場合の慰謝料額に影響を与える要素

不貞行為の慰謝料については、「50〜300万円」程度が相場であるといわれています。

これに対して、不貞行為なしの場合の慰謝料については、より低額な認定がされる傾向があります。権利侵害行為の内容(態様)や期間などによってケース・バイ・ケースで判断されることになりますが、慰謝料の相場としては「数万円〜100万円未満」程度とみておくのが無難かと思われます。

不貞行為がない場合、慰謝料の額に影響を与える要素は、以下のように「第三者との関係に関する要素」、「夫婦関係に関する要素」、「経済的な要素」の3つに大きく分けることができます。

  1. (1)第三者との関係に関する要素

    浮気相手との関係に関して以下のような事情があった場合、慰謝料が増額に傾く要因となり得ます。

    • 特定の第三者との関係が問題となっている場合
    • 第三者と会う頻度が多い場合
    • 第三者との関係が長期にわたる場合
    • 当事者らが浮気の事実を素直に認めていない場合


  2. (2)夫婦関係に関する要素

    夫婦関係に関して以下のような事情があった場合、慰謝料が増額に傾く要因となり得ます。

    • 夫婦の婚姻関係が長期にわたる場合
    • 第三者との関係が始まる前は夫婦円満であった場合
    • 夫婦の間に未成熟の子どもがいる場合
    • 夫婦の間に未成熟の子どもが複数人いる場合
    • 浮気が夫婦関係を破綻させた場合


  3. (3)経済的な要素

    当事者間の金銭的・経済的事情に関して以下のような要素があった場合、慰謝料が増額に傾く要因となり得ます。

    • 浮気をした配偶者や浮気相手の年収・資産・社会的な地位が高い場合
    • 浮気をされた側の配偶者の収入がない・少ない場合
    • 扶養しなければならない子どもが幼い・複数いる場合


    もっとも、以上の3つの要素はあくまで一般的な傾向であり、実際にご自身のケースで慰謝料が裁判所によってどのように算定されるかはケース・バイ・ケースで異なることになります。

3、不貞行為なしの慰謝料請求で注意すべきこと

  1. (1)浮気の証拠を集める必要がある

    精神的苦痛を理由とする慰謝料を請求する場合には、請求する側が不法行為の成立要件を主張・立証しなければなりません。

    不貞行為がない場合に精神的苦痛を被ったことを主張・立証する際に、有効な証拠としては以下のようなものがあります。

    • 第三者との親密な関係がわかる写真や動画
    • 第三者との親密なやり取りがわかるメールやLINEの文面
    • 第三者との密接な会話内容がわかる録音データ
    • 第三者に贈答したプレゼント代などの領収書やクレジットカードの利用明細
    • 第三者と過ごしたレストランでの食事代やデート代のレシートや利用明細
    • 友人や知人、職場の同僚など第三者の証言
    • 配偶者の同行を記録した日記、スケジュール帳、備忘録、メモ
    • 第三者との密接な関係がわかる探偵事務所による調査報告書


    不貞行為がない場合、精神的苦痛を被ったことを立証することが難しい場合もありますそのため上記のような証拠をできるだけ複数確保できることが重要となります

  2. (2)慰謝料の請求には時効がある

    慰謝料の支払いを求める権利は、不法行為に基づく損害賠償請求権であり、この請求権には消滅時効の期間が規定されています。

    不法行為に基づく損害賠償の請求権は、以下の期間が経過することで時効消滅します(民法第724条)

    • 被害者(その法定代理人)が損害及び加害者を知った時から「3年間」権利を行使しないとき
    • 不法行為の時から「20年間」権利を行使しないとき


    したがって、浮気を知ってから3年、または浮気から20年が経過してしまうことで、精神的苦痛を理由とする慰謝料を請求することはできなくなります

4、離婚を考え始めたときに知っておくべきこと

夫婦が別居・離婚をする際には、金銭において請求できる権利がいくつかあります。婚姻費用や財産分与、養育費など、それぞれを適切に請求していくことが、離婚後の生活を立て直すための重要なポイントとなります。

  1. (1)婚姻費用の分担請求

    夫婦が別居して離婚するまでの間は、相手方配偶者に対して婚姻費用の分担を請求することができます(民法第760条)。

    相手に分担を請求できる婚姻費用の中身は、夫婦が生活していくために必要となる費用であり、具体的には、住居費・水道光熱費・食費・被服費・通信費等の生活費のほか、出産費用・医療費、未成熟の子どもの養育費・教育費などが考えられますが、婚姻費用の額はそれらを個別に積み上げて計算するわけではありません。婚姻費用の額の決め方につきましては、また別の機会にご説明したいと思います。

  2. (2)財産分与の請求

    離婚をした元配偶者の一方から他方に対して財産の分与を請求することができます(民法第768条)。
    財産分与は、夫婦が共同生活を送る中で形成した財産の公平な分配であり、限定的ではありますが、離婚後の生活保障、離婚の原因を作ったことへの損害賠償という面が考慮されることもあります。
    原則として婚姻中に獲得された夫婦共有財産については2分の1での分与が認められます。

  3. (3)親権者の決定・養育費の請求

    未成熟の子どもがいる場合、離婚の際に夫婦の一方のどちらかを親権者と決めなければなりません。また、監護親(子どもと同居する親)は、非監護親(子どもと別居する親)に対して、養育費の支払いを請求することができます。
    養育費とは、子どもの監護や教育のために必要となる費用のことを指します。原則として、未成熟の子どもが社会的・経済的に自立するまでに要する、衣食住に必要な経費、教育費、医療費などが含まれます。

5、まとめ

この記事では、“不貞行為なし”の場合であっても、精神的苦痛を被った場合には慰謝料を請求できるケースがあることを解説してきました。ただし、不貞行為がない場合の慰謝料の相場については、不貞行為がある場合よりも低額になる可能性があり、精神的損害の立証についても難しい可能性があります。

不貞行為なしで精神的苦痛を負ったとして慰謝料の請求を検討している方は、一度弁護士に相談されることをおすすめします。弁護士に依頼すれば、慰謝料請求の手続きに関する各種サポートが受けられ、また示談によりスムーズに解決できる可能性も高まります。

不貞行為による離婚や慰謝料請求についてお悩みの方は、夫婦トラブルについて解決実績のあるベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士にぜひご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています