「性加害」とはどういう意味? 関連する刑法を解説
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「性」に対する社会的な考え方や関心は大きく変化しています。
令和5年4月には、木更津市の事実婚関係にあるパートナー同士が「パートナーシップ・ファミリーシップ宣誓制度」の宣誓第一号として届け出をしたことが報じられました。この制度は、性別などにかかわらず誰もが自分らしく安心して暮らせる共生社会を目指して導入された制度で、事実婚カップルのほか、性的少数者(LGBTQ)の人の利用も期待されています。
一方、近年になって耳にする機会が増えたのが「性加害」という用語です。ニュースや新聞、啓発広告などでもよく見かける「性加害」とはどういった意味の用語なのでしょうか?
本コラムでは「性加害」の意味や性加害にあたる犯罪行為などに触れながら、加害者になってしまった場合の解決法について、ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。
1、「性加害」の意味とは?
「性加害」という用語が広く使われるようになったのはごく最近からです。まずは「性加害」の意味について考えていきましょう。
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(1)性加害の意味
性加害とは、その名のとおり「性的な加害行為」を指す用語です。現在のところ、「同意のない性に関する加害行為全般」を指す用語として広く使用されています。
法律によって定められている犯罪に該当する行為だけでなく、犯罪に至らないとしても、標的になった人が性的な理由で深く傷ついてしまうような行為は性加害にあたると考えるのが一般的です。 -
(2)法律用語ではなく正確な定義は存在しない
「性加害」は法律用語ではなく、正確な定義が存在しません。そのため、どのような行為が性加害にあたるのかは、典型例を示すことはできても「ここからは性加害にあたる」「ここまでは性加害にあたらない」という基準が存在しないというのが実情です。
たとえば、刑法などによって定められている性的な犯罪に該当する場合は性加害といって間違いはないでしょう。
しかし、犯罪が成立しなかったり、裁判官が無罪判決を下したりしても、相手が性的に傷ついてしまっているなら広い意味では性加害に該当し得ます。
また、性的な犯罪が成立した場合でも、特定の被害者が存在しなければ性加害とは呼べません。
性加害という用語は、広く用いられる一方で正確な定義が存在しない、あいまいな表現だともいえるでしょう。
2、同意なく抱きついたりキスをしたりする行為は「不同意わいせつ罪」
相手に同意を得ないまま、抱きついたりキスをしたりといった行為は、刑法第176条の「不同意わいせつ罪」にあたります。
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(1)不同意わいせつ罪とは?
不同意わいせつ罪は、令和5年7月13日施行の改正刑法によって新設された犯罪です。本罪は、刑法改正前までは強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪という名称でした。
しかし、強制わいせつ罪では暴行・脅迫、準強制わいせつ罪では心神喪失・抗拒不能という要件があり、実際に性加害があったとしても罪に問われなかったケースが少なくなかったという問題があったため、改正によって要件をさらに明確にしたという経緯があります。
不同意わいせつ罪は、次に掲げる行為・事由によって、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせたり、またはその状態にあることに乗じたりして、わいせつな行為をはたらくことで成立します。- 暴行・脅迫
- 心身の障害
- アルコールや薬物の影響
- 睡眠や意識が明瞭ではない状態
- 不同意の意思を示すいとまがない
- 恐怖や驚愕
- 虐待に起因する心理的反応
- 経済的・社会的な関係にもとづく影響力によって受ける不利益への憂慮
従来の強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪の成立要件に加えて、相手が心理的に抵抗できない状態や酒に酔っているなど自分の意思をはっきりと示すことができない状態でも、わいせつな行為をすれば罪になるよう整備されました。
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(2)不同意わいせつ罪で科せられる刑罰
不同意わいせつ罪には、6か月以上10年以下の拘禁刑が科せられます。
拘禁刑とは、従来の懲役と禁錮を廃止・一本化した新しい刑罰です。刑務所に収容し、受刑者の性格や犯罪の内容に応じて柔軟な処遇を講じることで、懲役や禁錮よりも高い改善・更生の効果が期待されています。
なお、令和5年10月現在、拘禁刑は未施行です。施行が予定されている令和7年までは、従来どおり懲役が科せられます。
3、レイプや同意のないセックスは「不同意性交等罪」
いわゆるレイプと呼ばれる行為や相手の同意を得ていないセックスなどは、刑法第177条の「不同意性交等罪」に問われます。
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(1)不同意性交等罪とは?
不同意性交等罪も、不同意わいせつ罪と同じく刑法改正によって新設された犯罪です。
従来は強制性交等罪、さらにその前は強姦罪という名称でした。
相手が不同意の状態であるのに、性交・肛門性交・口腔性交のほか、膣・肛門に身体の一部や物を挿入する行為が処罰の対象です。
従来の法体制では、性交・肛門性交・口腔性交のみが処罰の対象でしたが、令和5年7月施行の改正によって、これまでは強制わいせつ罪で問擬するしかなかった膣に指を入れるなどの行為も本罪の処罰対象に含まれるようになりました。 -
(2)不同意性交等罪で科せられる刑罰
不同意性交等罪の法定刑は5年以上の有期拘禁刑です。最低でも5年、最長では20年にわたって刑務所に収容されるうえに、原則として執行猶予がつかず必ず実刑判決が言い渡されます。
4、セクハラ行為は「強要罪」や「名誉毀損罪・侮辱罪」
いわゆるセクハラ行為も、内容次第では性加害にあたります。自分では罪になるという意識がなくても、刑法第223条の「強要罪」や同第230条の「名誉毀損罪」、同第231条の「侮辱罪」に問われるかもしれません。
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(1)強要罪が成立するケース
強要罪は、生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加える旨を告げて脅して、または暴行を用いて、相手に義務のないことをおこなわせた場合に成立する犯罪です。
たとえば、職務上の上下関係から相手が断れないのをいいことに食事に同伴するよう強いたり、電話やメールなどでしつこくデートに誘ったりといった行為は、上記のような脅迫ないし暴行にまで発展した場合、強要罪にあたる可能性があります。
刑法の分類上、強要罪は性犯罪にはあたりません。ただし、性的な目的をもって相手の自由や名誉等を侵害すると脅すなどしたうえで義務のないことを強いれば、強要罪が成立する可能性があるのです。
強要罪の法定刑は3年以下の懲役です。懲役のみで罰金の規定がないという点をみれば、厳しい刑罰が設けられている犯罪だといえるでしょう。 -
(2)名誉毀損罪や侮辱罪が成立するケース
公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合は名誉毀損罪に、事実の摘示がなくても公然と人を侮辱した場合は侮辱罪に問われます。
たとえば、多くの社員がいるオフィス内で不倫関係を暴露したり、恥ずかしく感じるような性的なうわさを流したりといった行為は名誉毀損罪の処罰対象です。本罪は、条文に「その事実の有無にかかわらず」と明記されているとおり、たとえその内容が真実であっても罪になります。
事実を摘示していなくても、人を蔑視するような表現を用いれば侮辱罪です。たとえば、女性社員のことを指して「誰とでも寝るような性格だ」などと、まるで性についてふしだらな人であるかのように蔑視する発言があれば、侮辱罪に問われる可能性があります。
各罪の法定刑は次のとおりです。- 名誉毀損罪
3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金 - 侮辱罪
1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
なお、名誉毀損罪と侮辱罪はいずれも「親告罪」です。親告罪にあたる罪は、被害者からの告訴がなければ検察官は刑事裁判を提起できません。
- 名誉毀損罪
5、性加害の疑いをかけられたら弁護士に相談を
性加害と呼ばれる行為の多くは、法律の定めに照らすと犯罪にあたります。
相手からの申告によって事件化されれば、逮捕による身柄拘束を受けたり、厳しい刑罰が科せられたりする可能性があるので、心当たりがあるなら、すぐにでも弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)被害者との示談交渉による解決が期待できる
性加害の疑いをかけられてしまった場合、何よりもまず急ぐべきは「被害者との示談交渉」です。
警察や検察官といった捜査機関、裁判所が関与しない場で、被害者に対して性加害をしてしまったことを深く謝罪したうえで、与えてしまった実害分や精神的苦痛に対する慰謝料などを支払い、被害者の許しを請います。
被害者がこれを受け入れる場合は、まだ正式な届け出をしていない段階であれば被害届の提出を見送る、すでに届け出済みなら被害届・刑事告訴を取り下げるのが一般的です。
ただし、性加害に関するトラブルの示談交渉は簡単ではありません。性被害者の多くは、加害者に対して強い怒りや嫌悪といった感情を抱いているため、示談の申し入れを受け入れてもらえず、かたくなに拒絶されてしまう可能性もあります。また、拒絶している被害者に対して何度も示談を申し入れていると「脅されている」と誤解されてしまい、事態がさらに深刻になってしまう危険もあります。
被害者との示談交渉は、法律や刑事事件の知見が深く、事件とは無関係な第三者である弁護士に一任したほうが安全です。 -
(2)罪を疑われた場合の弁護活動を依頼できる
被害者との示談交渉はあくまでも捜査や刑事手続きの外でおこなわれる民事的な解決方法なので、必ず刑事事件を解決できるわけではありません。
しかし、すでに民事的な賠償を尽くしており、被害者もこれを受け入れているという事実は、刑事事件の手続きでも高く評価されます。
罪を疑われている状況でも、示談が成立すれば警察限りで事件が終結したり、検察官が不起訴を決定して刑事裁判が開かれなかったり、裁判官が執行猶予などの有利な判決を下したりする可能性が高まるでしょう。
そのほか、本人の深い反省を検察官や裁判官に主張する、具体的な再犯防止対策を示す、事案によっては被害者との間でわいせつな行為や性交等の合意があったことを示す証拠を提示するといった弁護活動があれば、穏便な解決が期待できます。
個人の力だけで、どのような対策を講じれば有利な展開になるのかを判断するのは困難です。穏便な解決を目指すなら、性加害トラブルに関する知識や経験を豊富にもつ弁護士のサポートが必須といえます。
6、まとめ
「性加害」と呼ばれる行為の範囲は広く、犯罪が成立するケースも多岐にわたります。近年、性加害に対する社会的な批判は高まる一方なので、行為の内容や状況によっては厳しい刑罰を科せられてしまうおそれもあります。
自分自身が加害者になってしまった、もしくはそのおそれがある場合は、弁護士への相談を急いでください。性加害に関する知見があり、刑事事件の解決実績をもつ、当事務所の弁護士がサポートします。まずはベリーベスト法律事務所 木更津オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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