養子縁組と相続権の関係|節税効果と相続発生時に留意すべきポイント

2024年08月07日
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養子縁組と相続権の関係|節税効果と相続発生時に留意すべきポイント

2020年度の司法統計によると千葉地方裁判所だけで、養子縁組の許可が58件ありました。養子縁組は、血縁関係にない他人同士を法律上親子として扱うための手続きです。

養子縁組をすると養子は養親が亡くなった場合に相続権を取得します。しかし、税法上の取扱いでは実子と異なる点もあるため、養子縁組したからといって節税対策になるとは限りません。

今回は、養子縁組と相続権の基礎知識や節税効果、留意すべきポイントについてベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。


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1、そもそも養子縁組とは?

養子縁組とは、血縁関係にない人同士が法律上の親子関係を結ぶことをいいます。養子縁組すると実子同様養親の法定相続人になることができます。

養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。まずは、それぞれの概要と違いについて解説します。

  1. (1)普通養子縁組とは

    普通養子縁組とは、血縁関係にない養親と養子が法律上の親子になることをいいます

    養子となった子どもと実親との親子関係も維持されます。つまり、普通養子縁組では、子どもには養親と実親の両方の親がいることになります。

    そのため、「養親が亡くなった場合」「実親が亡くなった場合」のどちらの場合でも子どもは相続権を有するという点が大きな特徴です。

    普通養子縁組は、養親が一定条件を満たし、子どもが成年であれば、双方の同意のみで成立させることができます。一方、子どもが未成年の場合には、家庭裁判所の許可が必要になります。

  2. (2)特別養子縁組とは

    特別養子縁組とは、子どもと実親との法的な親子関係を解消し、子どもと養親との間で実子と同じ親子関係を結ぶ制度です。特別養子縁組を成立させるためには、家庭裁判所に特別養子適格の確認の申立てと特別養子縁組の成立の申立てを行うことが必要となります。

    特別養子縁組は、虐待やネグレクトなどから子どもを保護し健全な養育をすることを目的としているため、養親・養子ともにさまざまな条件をクリアする必要があり、普通養子縁組に比べて要件が厳しい制度です。

    特別養子縁組の場合には、養子と実親との親子関係が消滅するのが大きな特徴です。

  3. (3)普通養子縁組と特別養子縁組の違い

    両者の主な違いは、下記の表の通りです。

    普通養子縁組 特別養子縁組
    成立方法 養親・養子の同意
    ※未成年者の場合、夫婦共同で養親となることのほか、家庭裁判所の許可が必要
    家庭裁判所の決定
    養子と実親との関係 親子関係継続 親子関係消滅
    相続権 実親、養親 養親のみ

2、養子にも相続権が発生する

親が亡くなったとき、実子だけでなく、養子にも相続権が発生します。この点は、普通養子縁組の場合も特別養子縁組の場合も同じです。

  1. (1)養子は実子と同じ相続権を持つ

    養子は、実子と同じ相続権を有します。

    たとえば、実子1人と養子1人の計2人が相続人になった場合、法律上、同じ子どもとして考えられるため、法定相続分に従うと半分ずつ遺産相続することになります。実子だから多く財産を受け取れる、養子だから少ししかもらえないなどの不平等はありません。

  2. (2)普通養子縁組は実親の相続権も持つ

    普通養子縁組の場合、実親と養子の親子関係は消滅しません。そのため、養親だけでなく実親の相続権も有します。

    一方、特別養子縁組の場合には実親との親子関係は消滅します。そのため、養子は養親の相続権しか有しません。

3、養子縁組をすると節税になるのは本当か

養子縁組をすると節税対策になると聞いた方も多いでしょう。しかし、養子縁組をしたからといって必ず節税になるわけではありません

以下では、節税になるケースと養子縁組するデメリットについて紹介します。

  1. (1)養子縁組の節税1|基礎控除額の増加

    相続税は、遺産総額のうち基礎控除額を超える部分に対してのみ課税されます。遺産総額が基礎控除額以下の場合は、相続税はゼロになります。この基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の人数」で計算されます。つまり、法定相続人が多くなればなるほど、基礎控除額が増えるということになります。

    前述のとおり、養子も養親の法定相続人になりますので、養子を増やせば増やすほど基礎控除の非課税枠が増えることになるのではないか、という発想が生まれます。

    しかし、(4)で後述するように、相続税の節税目的で養子縁組制度が悪用されないよう、法定相続人に含められる養子の数には制限が設けられています。

  2. (2)養子縁組の節税2|生命保険金の非課税枠を拡大

    被相続人が保険に加入していた場合、受取人に指定されていた人が死亡保険金の支給を受けることがあります。この死亡保険金に対しても、非課税枠が存在します。死亡保険金の非課税枠は、「500万円×法定相続人の人数」で計算します。

    このときは、相続税の基礎控除額のときとは異なり、養子が何人いたとしても法定相続人に含めることができます。つまり、死亡保険金については、養子がいればいるだけ非課税枠が増加します。

  3. (3)養子縁組の節税3|死亡退職金の非課税枠を拡大

    死亡退職金も「500万円×法定相続人の人数」が非課税枠です。そして、生命保険金の場合と同様、死亡退職金の場合にも、養子の人数に制限はありません。

    そのため、養子がいればいるほど計算上の法定相続人の人数が増え、非課税枠が増えることになります。

  4. (4)養子縁組の注意点1│基礎控除で養子の人数制限がある

    相続税の基礎控除額の計算上、法定相続人に含められる養子の数には制限があります。

    被相続人に実子がいた場合には、養子の数は1人までしか法定相続人に含められません。他方で、被相続人に実子がいなかった場合には、養子2人まで法定相続人に含めることができます。

    つまり、何人養子がいたとしても、1人か2人しか法定相続人に含めることができず、その限度でしか基礎控除額を増やすことができません。

    ただし、以下のケースにおいては、例外的に、養子も実子と同じように基礎控除額の計算において法定相続人の人数に含めることができます。

    • 特別養子縁組
    • 配偶者の連れ子(実子・養子ともに)の養子縁組
    • 孫の養子縁組(孫が未成年など一定条件を満たす場合)
  5. (5)養子縁組の注意点2│相続税が加算されるリスク

    相続は、基本的に、親から子、子から孫に順次承継されるものです。そのため、親から孫への承継や第三者への承継については、相続税が2割加算されるリスクがあります。

    たとえば、祖父母が孫と養子縁組していた場合に、祖父母が亡くなって孫が養子としてその遺産を相続する場合には、相続税が2割加算されることになります。

4、相続で弁護士に相談すべきケース

相続税の節税目的で養子縁組をしたことによってトラブルを招いてしまった、というケースもありますので、養子縁組に関する争いを回避するために弁護士に相談すべきケースを紹介します。

  1. (1)遺産争いが起こる可能性がある場合

    比較的多くの遺産がある場合には、そもそもの遺産分割で折り合いがつかず、相続人同士で揉めてしまうケースが少なくありません。そのようなケースにおいて、さらに血縁関係のない養子がいると、争いはさらに複雑化、悪化する可能性があります。

    このような場合には、遺言書の作成や生前贈与を行うなど、何らかの対策が必要になります。そうすることで、自分の死後、自分の意思が尊重された財産分配を行うことができます。そのためにも、法的に有効な遺言を作り、その内容を執行してもらうために弁護士に相談しておくことは有効です。

  2. (2)養子の子どもがいる場合

    養子に子どもがいる場合にも注意が必要です。
    養子が先に亡くなり、その後養親が亡くなった場合、養子の子が代襲相続人として養親の相続財産を受け取ることができるケースとできないケースがあります。

    これは、養子の子が生まれた時期と養子縁組の時期の先後によって変わります。
    養子の子が養子縁組の前に生まれていた場合には、養子の子は代襲相続人になることができませんが、養子縁組の後に生まれていた場合には、代襲相続人になることができます。

    そのため、養子の子どもに財産を残したい場合には、養子の子どもとも養子縁組をしたり、遺言や生前贈与を行ったりする必要があります。このようなケースの場合には、どのように財産を残すべきか、弁護士にアドバイスをもらうことをおすすめします。

  3. (3)再婚で連れ子がいる場合

    再婚で連れ子がいる場合にも弁護士に相談することをおすすめします。連れ子の場合、親同士が結婚しただけでは、連れ子と再婚相手が自動的に法的な親子関係になることはありません。

    そのため、再婚相手が連れ子に財産を残すためには、連れ子と養子縁組をするか、遺言書で連れ子に財産を残すか生前贈与をする必要があります。いずれも生前にしかすることができないため、早めに弁護士に相談しておくと安心です。

5、まとめ

養子縁組をすると、養子は実子同様の相続権を持つことになります。しかし、相続税の計算上においては、必ずしも養子を増やすことが節税対策になるとは限りません。

また、養子の子どもや配偶者の連れ子がいる場合には、相続時にトラブルになる可能性が高いため、事前に弁護士に相談しておくと安心です

ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスでは、お一人おひとりのお話を聞き、養子縁組や相続問題に対する適切なサポートをさせていただきます。また、グループの税理士との連携により相続税の問題もワンストップで対応が可能です。

養子縁組における相続でお悩みの場合は、まずはお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています