入院費を支払うと相続放棄できない? 対処法や注意点を弁護士が解説
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司法統計によると、令和6年度の相続放棄の新規受理件数は30万8753件でした。令和5年度の28万2785件と比べると2万件以上増加しており、相続放棄を選択する方が増えていることが伺えます。
ただし、相続放棄を希望するならば、病院からの請求に応じて故人(被相続人)の入院費を支払うと相続放棄が認められなくなるケースもあるため注意が必要です。
本コラムでは、入院費の支払いによるリスクや相続放棄できなくなるケース・対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。
1、入院費を支払うと相続放棄できなくなるケースとは
被相続人の入院費を相続人が支払う際、その方法によっては相続放棄が認められなくなる可能性があります。
以下では、そもそも相続放棄とは何か、そして入院費の支払いによって相続放棄できなくなる具体的なケースを解説します。
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(1)そもそも相続放棄とは?
相続放棄とは、被相続人の財産や負債についての権利・義務を一切受け継がないことを選択する手続きです。
相続放棄を行うには、相続が開始し自身が相続人であることを知った日から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。
期限を過ぎると相続放棄が認められず、自動的に「単純承認」をしたものと法律上みなされます。単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産も含めて被相続人の財産をそのまま相続することです。
期限を過ぎたり遺産を処分したりすることで自動的に単純承認をしたものと法律上みなされる制度を、「法定単純承認」といいます。 -
(2)故人の遺産から入院費を支払うケース
被相続人となる故人の遺産から入院費を支払うと、その行為が単純承認とみなされ、相続放棄できなくなるため注意が必要です。
故人の入院費は、病院から遺族に対して請求されるのが一般的です。
しかし、被相続人の財産から支払ってしまうと、相続放棄できなくなる可能性が高くなります。入院費を被相続人の財産から支払う行為は、法定単純承認事由である「相続財産の処分」に該当するためです。
相続放棄を検討しているときは、入院費用を相続財産で支払うのは避けましょう。 -
(3)相続放棄の受理後でも被相続人の預金から入院費を支払った場合は単純承認とみなされる
相続放棄が家庭裁判所に受理された後であっても、入院費は被相続人の預金などの財産から支払わないよう注意しましょう。
相続放棄が成立していたとしても、相続人のような行動をとれば、それだけで単純承認をしたと判断される可能性があります。そうなると、放棄の効果は一切なくなり、すべての負債も引き継ぐことになります。
なお、被相続人の入院費の保証人になっている場合は、保証人としての支払い義務が発生します。また、被相続人が配偶者である場合、その入院費は夫婦の日常の家事に関する債務となり、他方の配偶者も連帯債務を負うので、財産を相続したかどうかにかかわらず支払義務があります。
どのような状況であったとしても、相続放棄を考えているときは相続財産には手を付けないほうが得策です。
2、入院費の支払い以外にも相続放棄できなくなるケース
入院費の支払い以外にも、特定の行動をとることで相続放棄が認められなくなるケースがあります。相続放棄できなくなる代表的な5つの例について、以下でひとつずつ確認していきましょう。
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(1)相続財産の譲渡
相続財産を他者に譲渡した場合、単純承認したものとみなされ相続放棄ができなくなります。相続財産を親族や第三者に譲る行為は、相続財産の処分と判断されるためです。
たとえば、故人の所有していた宝石や美術品を勝手に第三者に譲ってしまった場合、その後の相続放棄は認められなくなります。
相続放棄を検討している段階では、財産の譲渡行為は控えましょう。 -
(2)預貯金の払い戻し・解約
被相続人の銀行口座から現金を払い戻したり、解約したりする行為は、相続財産の処分に該当します。
預貯金は被相続人の相続財産であり、手を付けると相続放棄ができなくなる可能性があるため、取り扱いには注意が必要です。
なお、葬儀費用や仏壇などの購入費用に関しては、相続財産から支出したとしても社会通念上相当な範囲内であれば法定単純承認にはあたりません。しかし、不相当な額の支出や、葬儀の規模などによっては、単純承認とみなされるおそれがあるため、不安な場合は弁護士への相談を検討しましょう。 -
(3)遺産分割協議に参加した
遺産分割協議に参加した場合も、相続放棄できなくなる可能性があります。遺産分割協議とは、相続人全員で被相続人の財産の分け方を話し合う手続きです。
相続放棄をしている、あるいはする予定の方が協議に参加すると、単純承認とみなされるおそれがあります。被相続人の財産に関する遺産分割協議に参加することは、相続財産の処分行為と考えられるためです。
相続放棄を確実に成立させたい場合は、遺産分割協議にはかかわらないようにしましょう。 -
(4)不動産や車などの名義を変更した
不動産や車などの名義を被相続人から自分名義に変更する行為も、単純承認したものとみなされます。名義変更は所有権の移転登記であり、財産の所有者としての意思が表れる行為と判断されるためです。
相続放棄は被相続人のすべての財産や債務を受け継がない手続きであり、財産を所有する意思が表れる行為とは矛盾します。
被相続人の財産にかかわる手続きを進める前に、自身の状況をよく確認することが重要です。 -
(5)故人宛ての請求書(公共料金や税金)を支払った
故人宛てに届いた公共料金や税金の支払いに関しても、注意が必要です。支払いに被相続人の財産を使用した場合、入院費の支払いと同様に相続放棄できなくなる可能性があります。
相続放棄の意思がある場合、被相続人宛てに届いた請求書の支払いに関しては慎重に判断すべきです。
こうした請求がきた際は安易に相続財産から支払うのは避け、弁護士に相談することをおすすめします。
お問い合わせください。
3、相続放棄したい場合の対処法や注意点
相続放棄を成立させるためには、相続人としての立場を示す行動を避けることが重要です。以下では、相続放棄を希望する人がとるべき具体的な対処法と注意点を3つの視点から解説していきます。
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(1)相続人が自身の預金口座から入院費を支払う
相続放棄を検討している場合は、被相続人の財産を使わず、自身の預金口座から入院費を支払いましょう。被相続人の財産を使わないことによって、単純承認とみなされるリスクを避けられます。
ただし、被相続人の生前の入院費は債務として相続人全員で負担すべき費用であり、特定の相続人が全額を支払う必要はありません。また、相続放棄するのであれば支払い義務はなくなります。
病院から請求がきた際は、まず他の相続人と話し合うことが大切です。 -
(2)入院費の支払いを拒否する
相続放棄を希望するのであれば、入院費の支払いは拒否しても問題ありません。相続放棄を行うと、入院費の支払い義務を負う理由がなくなるためです。
ただし、たとえ相続を放棄していたとしても、入院費の保証人になっていた場合や被相続人の配偶者である場合には、財産を相続したかどうかにかかわらず、支払いをまぬがれない可能性があります。
保証人であれば契約上の責任として保証債務の支払義務が生じますし、配偶者であれば、法律上、夫婦の日常家事に関する連帯債務として請求されるケースもあるため、注意が必要です。
支払いを拒否する際は、誤解やトラブルを防ぐためにも、必要に応じて弁護士に相談しながら対応しましょう。 -
(3)他の相続人の意思を確認する
相続放棄を検討しているときは、他の相続人の意思も確認しておくようにしましょう。相続放棄を行うことによって、他の相続人に影響が及ぶ可能性があるためです。
たとえば、被相続人の生前の入院費は基本的に債務として扱われます。債務は相続人が負担する必要があるため、ひとりが相続放棄した場合、他の相続人の支払う割合が増えることになります。
不要なトラブルを避けるためには、あらかじめ他の相続人と連絡をとり、意思を確認しておくことが望ましいです。
4、入院費の支払いに悩んだら弁護士に相談を
相続放棄を検討している段階で入院費の支払いを求められた際は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談するメリットは、以下のとおりです。
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(1)相続放棄すべきかどうか判断できる
弁護士は、相続放棄すべきかどうかを適切に判断できます。
相続放棄は、単純に「借金が多そうだから」という理由だけで決めるのは早計です。実際には、被相続人の資産・負債の全体像を把握し、どの選択が得策かを冷静に判断する必要があります。
弁護士は、過去の判例や実務経験をもとに、状況に応じた判断材料を提示できます。また、法定単純承認に該当するリスク行為もしっかりチェックできるため、安心して手続きを進められるでしょう。 -
(2)被相続人の財産を調査できる
被相続人の財産を調査できるのも、弁護士に相談するメリットのひとつです。
相続放棄の判断をするには、被相続人の財産の状況を正確に把握することが不可欠です。しかし、個人で調べられる範囲には限界があり、銀行や役所とのやりとりにも時間と手間がかかってしまいます。
弁護士に依頼すれば、金融機関への照会や不動産登記簿の確認、借入状況の調査などの代行が可能です。これによって、相続放棄を判断するまでの手続きの負担を大幅に軽減できます。 -
(3)相続人同士の間に入り無用なトラブルを避けられる
弁護士は、相続人同士の間に入って交渉できるため、無用なトラブルを避けやすくなります。
相続は、親族間でトラブルになりやすい問題です。とくに入院費などの費用負担に関しては意見の相違が生じやすく、当事者だけで解決するのが難しいケースも少なくありません。
弁護士が関与することで感情的な衝突を避け、交渉をスムーズに進められるでしょう。
5、まとめ
故人の入院費を支払うと法定単純承認に該当する可能性が高く、相続放棄できなくなるおそれがあります。
しかし、すべてのケースで相続放棄ができなくなるわけではありません。入院費の支払いを拒否したほうがいいケースや、入院費を支払ったとしても相続放棄できるケースもあります。
相続放棄をしたい場合には、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。弁護士のアドバイスを受けることで、誤った判断を避けられるだけでなく、相続人間のトラブル回避にもつながるでしょう。
スムーズに相続対応を進めるためにも、悩んだときにはぜひベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
