相続せずに家を解体していいの? リスクや解体する方法を解説

2024年10月09日
  • 相続放棄・限定承認
  • 相続せずに解体
相続せずに家を解体していいの? リスクや解体する方法を解説

2023年の千葉県木更津市の死亡者数は1702名でした。亡くなった方については相続が開始しますが、被相続人の遺産分割で特に扱いが難しいのが不動産です。

たとえば、被相続人が古い家屋を所有していた場合、維持管理が難しいなどの理由から、その家屋を相続せずに解体したいと考えるケースもあるかと思います。

しかし、ご自身以外に相続人がいる場合には、家屋の解体について他の相続人の同意を得なければなりません。同意を得ずに勝手に家屋を解体すると、損害賠償や刑事罰のリスクを負うことになるからです。

本記事では、相続せずに家屋を解体できるのか、相続財産である家屋を解体する際の注意点などを、ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。

出典:「木更津市統計書(令和5年版)」(木更津市)


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1、古い家屋を、相続手続きをせずに解体するのはOK? 違法?

亡くなった被相続人が所有者(名義人)であった古い家屋を、ご自身だけの判断で解体しようとすることは違法となるケースがあるので注意が必要です。

相続財産である古い家屋をご自身だけの判断で解体できるかどうかは、状況に応じて以下のように整理されます。

① 自分だけが家屋を相続する場合:原則として解体しても問題ない(例外は後述)

② 他にも家屋の相続人がいる場合:他の相続人の同意を得る必要がある

③ 行政代執行の戒告(※)を受けた場合:他の相続人の同意がなくても解体可能
※行政代執行の戒告:老朽化が進む建物などについて、所有者による自主的な改善や撤去を促す注意・警告


  1. (1)自分だけが家屋を相続する場合|原則として解体しても問題ない

    ご自身だけが家屋を相続する場合は、その家屋を解体しても問題ありません

    ただし、相続人が1人だけであっても、遺言書によって別の人に家屋が遺贈されているケースもありえます。この場合、ご自身の判断で家屋を解体することはできません。被相続人の遺品を調べるほか、公証役場や法務局にも遺言書が保管されていないか確認し、見落としを防ぎましょう。

    また、遺言書によりご自身が単独で家屋を相続した場合も、家屋の解体が可能です。ただし、他の相続人が遺言書の無効を主張してくるケースもありえます。念のため、家屋を解体する旨を他の相続人に事前に連絡し、承諾を得ておくことが望ましいでしょう。

    なお、後述するように、家屋に抵当権などの担保権が設定されているときは、ご自身だけが家屋を相続する場合であっても、勝手に解体するとトラブルになるおそれがあるので注意が必要です。

  2. (2)他にも家屋の相続人がいる場合|他の相続人の同意を得る必要がある

    家屋についてご自身以外にも相続人がいる場合には、ご自身だけの判断で家屋を解体することはできません。

    この場合において、家屋を解体するためには、以下のいずれかの手続きを行う必要があります。

    • 解体について他の相続人全員の同意を得る
    • 遺産分割協議(または調停・審判)によって自分が単独で家屋を相続する
  3. (3)行政代執行の戒告を受けた場合|他の相続人の同意がなくても解体可能

    保存状態が悪く、倒壊などの危険が生じている家屋(=特定空家等)については、除却(解体)などを命じられることがあります(空家等対策の推進に関する特別措置法第14条第3項)。

    家屋の除却(解体)が命じられた場合において、義務者(=建物所有者)が除却(解体)を行わず、その状態を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、行政庁が「行政代執行」を行うことができます(行政代執行法第2条)。
    行政代執行は、行政庁が自ら建物を解体し、または外部業者に解体工事を行わせて、その費用を義務者から徴収する形で行われます。

    行政代執行に先立ち、行政庁は原則として義務者に対し、代執行をなすべき旨をあらかじめ文書で戒告します(同法第3条第1項)。
    相続財産である家屋について行政代執行の戒告を受けた場合は、他の相続人の同意を得ることなく、その家屋を解体できると考えられます。
    放置すればいずれにしても除却(解体)されるところ、自主的に除却(解体)することには正当な理由があると考えられるためです。

2、相続人の同意を得ずに家屋を解体するとどうなる?

本来であれば他の相続人の同意を得る必要があるにもかかわらず、同意を得ずに相続財産である家屋を解体すると、以下のリスクを負ってしまいます。



  1. (1)損害賠償を請求される

    解体した家屋に財産的価値がある場合、各相続人は、原則として法定相続分に従ってその価値相当額を取得する権利を有します。

    解体によって家屋の財産的価値が失われた場合には、勝手に解体した相続人が他の相続人に対して、その損害を賠償しなければなりません(民法第709条)。

  2. (2)建造物等損壊罪で処罰される

    他人が所有する建造物を損壊する行為には、「建造物等損壊罪」が成立します(刑法第260条)。建造物等損壊罪の法定刑は「5年以下の懲役」です。

    ご自身が家屋の相続人の1人であっても、他にも相続人がいれば、その家屋を勝手に壊すと建造物等損壊罪によって処罰されるおそれがあるのでご注意ください。

3、相続財産である家屋を解体する場合の注意点

相続財産である家屋を解体する際には、以下の各点に注意して対応しましょう。



  1. (1)他の相続人がいるかどうかを確認し、全員の同意を得る

    前述のとおり、ご自身以外にも家屋を相続する人(または家屋の遺贈を受けた人)がいる場合には、解体に当たって他の相続人全員の同意を得る必要があります

    まずは亡くなった被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取り寄せ、ご自身以外に相続人がいるかどうかを確認しましょう。

    ただし、被相続人が複数の婚姻歴がある場合や、養子縁組をした場合、認知した子どもがいる場合などは、戸籍が複雑になっています。ご自身で相続人の範囲を判断できない場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

    また、被相続人が遺言書を残しているかどうかも確認しなければなりません。遺言書によって家屋が遺贈されている場合には、受遺者の同意を得なければ家屋を解体できないためです。

    被相続人の遺品のほか、公証役場や法務局でも調査して、遺言書が存在するかどうかを確認しましょう。

  2. (2)家屋に担保権が設定されていないことを確認する

    家屋の解体に先立って不動産全部事項証明書(登記簿謄本)を取得し、家屋に抵当権などの担保権が設定されていないことを確認しましょう。

    担保権が設定された家屋を勝手に解体すると、被担保債権の債権者との間で、借入金の一括返済を請求されるなどのトラブルが生じるおそれがあります。

    家屋に担保権が設定されている場合は、解体をいったん取り止めて、被担保債権の有無や金額を確認した上で対応を検討しましょう。

  3. (3)解体費用の負担者を決めておく

    他の相続人の同意を得て家屋を解体する場合は、解体費用を誰が負担するかを事前に決めておきましょう。

    解体費用の負担者や負担割合は、家屋の共有者である相続人の合意によって自由に決めることができます。

    法定相続分に従って分担する、敷地である土地を相続する人が全額負担する、解体を主導した人が負担するなど、さまざまなパターンが考えられます。

    解体費用の分担を決めておかないと、後でその負担を巡ってトラブルになる可能性があります。特に解体費用を自ら支出した人は、他の相続人に支払いを拒否されるリスクがあるので十分ご注意ください。

  4. (4)解体後は滅失登記手続きを行う

    家屋の解体が終わったら、その家屋が所在していた地域を管轄する法務局において、建物滅失登記手続きを行いましょう

    滅失登記手続きについての詳細は、法務局ウェブサイトをご参照ください。
    参考:「建物を取り壊した/建物を新築した」(法務局)

4、相続トラブルが起こったら弁護士に相談を

不動産の相続方法や解体の可否などを含めて、何か相続トラブルが発生した場合は、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。

弁護士に相談すれば、遺産分割を円滑に完了するためのサポートを受けることができます。

特に相続人の間でもめやすい不動産の相続については、弁護士が適切な時価評価などを通じて円満に合意を得られるようにサポートいたします。相続トラブルを解決できずに悩んでいる方は、お早めに弁護士へご相談ください。

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5、まとめ

相続財産である家屋を解体したい場合は、ご自身だけが家屋を相続する場合を除き、原則として相続人全員から同意を得るか、または遺産分割協議等によってその家屋を単独で相続しなければなりません。

他の相続人の同意を得ることなく勝手に家屋を解体すると、損害賠償や刑事罰のリスクを負うので十分ご注意ください。

相続に関するトラブルが発生しそうな場合は、対応方針について弁護士のアドバイスを受けるのが安心です

ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。家屋の解体を含む不動産の相続トラブルや、その他の遺産相続に関するトラブルにお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスにご相談ください。

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