寄与分は相続人以外でももらえる? 請求できる特別寄与料とは?

2025年01月29日
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寄与分は相続人以外でももらえる? 請求できる特別寄与料とは?

介護や看護などで財産の維持・増加に貢献した相続人は、「寄与分」を主張することで、本来の相続分よりも多くの遺産を相続できる可能性があります。

寄与分は、原則として相続人以外の人には認められていませんでしたが、令和元年の相続法改正により、相続人以外の親族も「特別寄与料」という形で貢献度に応じた財産をもらえるようになりました。

今回は、相続人以外でも請求できる「特別寄与料」について、ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスの弁護士が解説します。


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1、相続の基本

特別寄与料の制度を説明する前提として、まずは相続の基本についてみていきましょう。

  1. (1)法定相続人と法定相続分

    法定相続人とは、民法で定められた遺産を相続する権利を持つ人のことです。

    民法では、相続人の範囲および順位を以下のように定めています。

    • 配偶者:常に相続人になる
    • 第1順位:子どもなどの直系卑属
    • 第2順位:両親などの直系尊属
    • 第3順位:兄弟姉妹


    相続は、配偶者と上位の順位の者から行われ、上位の相続人がいる場合は、その下の順位の相続人は相続する権利を持ちません。

    たとえば、被相続人(夫)が亡くなり、妻(配偶者)と子どもがいる場合、相続できるのは妻(配偶者)と第1順位の子どもだけです。この場合、両親(第2順位)や兄弟姉妹(第3順位)は相続権を持ちません。

    また、相続人の組み合わせに応じて、各相続人の法定相続分は、以下のように定められています。

    • 配偶者と子ども:配偶者2分の1、子ども2分の1
    • 配偶者と両親:配偶者3分の2、両親3分の1
    • 配偶者と兄弟姉妹:配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1
  2. (2)遺留分

    遺留分とは、法律上保障されている最低限度の遺産の取得割合です。

    例えば、被相続人が特定の相続人に対してすべての遺産を相続させるという遺言を残していたとしても、他の相続人は遺留分に相当する分は確保することができます。

    遺留分が保障されているのは、兄弟姉妹以外の相続人です。すべての相続人に認められているわけではない点に注意が必要です。

    また、遺留分の割合は、以下のように定められています。

    • 直系尊属のみの場合:法定相続分の3分の1
    • それ以外の場合:法定相続分の2分の1
  3. (3)寄与分

    寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献した相続人がいる場合に、当該相続人の相続分を増やすことができる制度です

    例えば、生前に被相続人の介護や看護などにより特別な貢献をした相続人は、寄与分を主張することで貢献度に応じた寄与分を取得することができます。

    寄与分は、相続人による寄与行為の類型に応じて、以下の5つに分類されます。

    • 家業従事型:家業を無償で手伝っていた場合
    • 金銭出資型:金銭や不動産などを提供していた場合
    • 療養看護型:介護や看護をしていた場合
    • 扶養型:生活の面倒をみていた場合
    • 財産管理型:不動産などの財産を管理していた場合


    なお、いとこやおじ・おばなど、法定相続人以外の親族が寄与行為をしたとしても、寄与分は認められません。

2、特別寄与料とは何か? 裁判例も交えて解説

特別寄与料とは、どのような制度なのでしょうか。以下では、特別寄与料の制度が導入される前の裁判例などを交えながら特別寄与料の制度について説明します。

  1. (1)特別寄与料の制度がないときに寄与分が認められた裁判例|東京高裁平成22年9月13日決定

    【事案の概要】
    被相続人は、脳梗塞で倒れて入院となり、その後自宅での介護が必要な状態になりました。自宅での介護は、被相続人の長男の妻が対応しており、主に以下のような介護を行っていました。

    • 週2回、被相続人を車に乗せてリハビリのために病院に連れていく
    • 週2回、通院の前日に被相続人の入浴の介助をする
    • 被相続人から頼まれて通帳からお金を引き出す
    • 亡くなる半年くらい前からは毎晩おむつ交換や粗相をしたときの布団の後始末をする


    【裁判所の判断】
    裁判所は、被相続人の長男の妻による介護は、同居親族の扶養の範囲を超えて行われたものであり、相続財産の維持に貢献した側面があると認定しました。
    そして、長男の妻の介護は、相続人である長男の履行補助者として行われたものと評価して、長男の寄与分として200万円を認めました。

    【注意ポイント】
    この裁判例は、相続人以外の人による寄与行為があった事案について、相続人の「履行補助者」として寄与分を認めたものになります。あくまでも相続人の寄与分として認めたものになりますので、相続人以外の人に対して寄与分を認めた裁判例ではありません。

  2. (2)令和元年7月1日から特別寄与料の制度がスタート

    寄与分は、相続人にのみ認められた制度ですので、相続人以外の人が寄与行為をしたとしても寄与分を請求することはできませんでした。

    しかし、実際には相続人以外の親族が被相続人の介護をするケースも少なからずあるところ、そのような貢献をまったく評価できないのは不合理であるとの批判もあり、令和元年7月1日から新たに「特別寄与料」という制度がスタートしました。

    これにより、相続人以外の親族による寄与行為があった場合にも、その貢献に報いることができるようになりました。

  3. (3)特別寄与料が認められる要件

    特別寄与料が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

    ① 被相続人の親族
    特別寄与料を請求できるのは、相続人を除く被相続人の親族です。親族とは、以下のように定義されています。

    • 配偶者
    • 6親等内の血族(親、祖父母、兄弟姉妹、子ども、孫、いとこなどが含まれます)
    • 3親等内の姻族(配偶者の両親(義父母)、配偶者の兄弟姉妹(義理の兄弟姉妹)などが含まれます)


    なお、内縁の配偶者については上記の定義に該当しませんので、特別寄与料は請求できません。

    ② 特別の寄与をしたこと
    特別の寄与をしたといえるためには、以下のような寄与行為により一定程度の貢献があったといえる必要があります

    • 家業従事型:家業を無償で手伝っていた場合
    • 療養看護型:介護や看護をしていた場合


    特別寄与料は、寄与分とは異なり、労務提供による寄与行為のみが対象となり、財産給付による寄与行為は含まれていません。そのため、単に生活費を渡していたという寄与行為では、特別寄与料の請求はできません。

    ③ 相続財産が維持または増加したこと
    特別の寄与により被相続人の財産の維持または増加に貢献したという「因果関係」が必要になります。

  4. (4)特別寄与料の計算方法

    以下では、特別寄与料の対象となる「家業従事型」と「療養看護型」の特別寄与料の計算方法を説明します。

    ① 家業従事型
    家業従事型の特別寄与料の計算方法は、以下のとおりです。

    通常支払われるべき年間給与額×(1-生活費控除割合)×寄与年数×裁量割合


    特別寄与者に通常支払われるべき年間給与額は、家業と同種・同規模の事業に従事した場合の賃金を賃金センサスに基づいて算定します。賃金センサスとは、総務省統計局が収集・提供している日本全体の統計的な賃金データです。

    ② 療養看護型
    療養看護型の特別寄与料の計算方法は、以下のとおりです。

    第三者に療養看護を依頼した場合の日当額×療養看護の日数×裁量割合


    日当額は、介護保険制度上の介護報酬基準額を参考にします。具体的な金額については、要介護度により若干異なりますが、おおむね5000円~8000円程度になります。
    裁量割合としては、0.7が採用されるケースが多いようです。

3、特別寄与料を相続が始まってから請求する方法

特別寄与料を相続が始まってから請求する場合、以下のような方法で請求します。

  1. (1)相続人との話し合い

    特別寄与者は、まずは相続人との話し合いにより特別寄与料の請求を行います。相続人が複数いる場合、相続人それぞれに対して特別寄与料を請求できますが、請求できる金額は、特別寄与料に各相続人の法定相続分を乗じた金額が限度となります。

    相続人との話し合いで合意が成立したら、合意内容をまとめた合意書を作成しておきましょう。

    なお、特別寄与料は、相続の開始および相続人を知ったときから6か月という消滅時効と、相続開始のときから1年という除斥期間という期間制限がありますので、特別寄与料を請求する場合には早めに行動することが大切です。

  2. (2)特別の寄与に関する処分調停の申立て

    相続人との話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所に特別の寄与に関する処分調停の申立てを行います。

    調停では、調停委員が相続人と特別寄与者との間に入って話し合いを進めてくれますので、当事者同士では話し合いが進まないケースでも、第三者が入ることで解決に至る可能性があります。

    調停で当事者全員の合意が成立すれば調停成立となります。

  3. (3)審判

    調停が不成立になると、そのまま審判の手続きに移行します。審判では、相続人による話し合いではなく、家庭裁判所の裁判官が特別寄与料についての判断を下します。

4、生前に特別寄与料について対策する方法

相続開始後の特別寄与料の請求は、相続人と特別寄与者との間でトラブルが生じる可能性がありますので、できれば生前に以下のような対策を講じておくとよいでしょう。

  1. (1)生前贈与

    生前に介護や看護などで貢献してくれた人がいる場合、その労に報いるために生前贈与を行うという方法があります。生きている間に感謝の気持ちを伝えることができる方法ですので、相手の喜ぶ顔も見ることができます。

    なお、生前贈与については贈与税がかかりますが、年間110万円までであれば非課税で贈与することが可能です。

  2. (2)遺贈

    遺言書を作成することで、相続人以外の人にも遺産を渡すことが可能です。これを「遺贈」といいます。

    特別寄与料だと相続人との話し合いが必要になりますが、遺贈であれば相続人と話し合う必要なく遺産をもらうことができますので、相続開始後の争いを回避することができます。
    ただし、遺言の内容によっては、遺留分に関するトラブルを招くおそれがありますので、専門家である弁護士に相談しながら遺言書を作成するようにしましょう

  3. (3)養子縁組

    養子縁組をすることにより、養子に遺産を相続させることができます。相続人の数が増えることになりますので、相続税の基礎控除の枠も拡大することができ、節税効果も期待できます。

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5、まとめ

令和元年7月1日からスタートした「特別寄与料」の制度により、相続人以外の親族も貢献度に応じた財産をもらえるようになりました。該当する方は積極的に主張していくようにしましょう。

もっとも、特別寄与料は、比較的新しい制度ですので、他の相続人が理解していないこともあります。交渉が難しいと感じる場合は、まずは相続問題の実績がある弁護士に相談することが大切です。ベリーベスト法律事務所 木更津オフィスには、相続トラブルの解決実績がある弁護士が在籍しております。ぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています